港湾、作業船…動向にらみ

 

GEが開発したハリアデXの試作機

 「大型化の検討を進めている」。GEリニューアブル・エナジーの大西英之・洋上風力事業部・日本代表はこう明かす。最新機種「ハリアデX」は単機出力1万2千~1万4700キロワットの風車で、日本や欧米で納入を控えるが、既に次世代機の開発が動きだしている。ハリアデXのプロトタイプは2019年11月に稼働してから3年が経過しており、「成熟度は高い」と大西氏は自負する。出力の大規模化で他社に先行する構えだ。
 

サイクルが短く

 
 発電事業者の要求が高まり続ける中で、新機種の開発サイクルは短縮傾向にある。ベスタス・ジャパンの吉田浩士テクニカルビッドスペシャリストは「直近の製品サイクルは洋上風車で4~5年と、黎明(れいめい)期に比べ半分程度に短くなった」と話す。

 ベスタスは「V236―15MW」の1万5千キロワット風車を開発中だ。従来機の9500キロワットから出力を1.5倍以上に増強、発電量は65%ほど増える。テスト機を製作して型式認証を取得し、24年にも欧州で初号機を出荷する計画だ。日本市場でも洋上風力公募の第2ラウンド以降の巻き返しに向けた中核の戦略となる。

 V236の開発計画を発表したのが21年だった。製品サイクル通りにいけば、次世代機の構想は20年代中頃に出る計算だ。だが、吉田氏は「風車メーカーが実際に製品を出すかは、市場や各業界の動向にもよる」と慎重に語る。
 

タイミングが鍵

 
 次世代機の出力をいくらに設定し、いつ市場投入するかはメーカーにとって最重要戦略だ。風車メーカー関係者は「最新機種を出すタイミングで、ある時に世界中の市場を席巻することがある」と解説する。

 次世代機の開発計画は港湾の整備状況や、自己昇降式作業台船(SEP船)の開発動向にも左右される。風車が市場環境と比べてオーバースペックになる恐れがあるためだ。SEP船の長期に及ぶ投資回収時期も計算に入れる必要がある。

 洋上風車はどこまで大型化できるのか――。シーメンス・ガメサの青木俊篤・陸上・洋上風力営業部兼技術部部長は「天井があるのかどうかは分からないが、他のメーカー(の風車)ももっと大きくなるだろう」と見通す。千キロワットが洋上風車の限界といわれていた時代を乗り越え、港湾や船舶といった制約も解決策が出てくるのが自然との見方だ。

 シーメンス・ガメサの公表済み最新機種「SG14―236DD」は公称1万4千キロワットだが、最大で1万5千キロワットまで高められる。テスト機を建設し、型式認証を24年6月までに取得する予定だ。現行機種と出力は同じだが、ローター径が236メートルと14メートル長くなり、より多くの風を受けて発電量を増やせるようになった。次の機種の出力はどの程度になるのか。青木氏は「規模感はある。だが、まだ話せない」。
 

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 世界の洋上風力市場拡大を支える風車の大型化。牽引するのはデンマークのベスタス、スペインのシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジー、米GEリニューアブル・エナジーの大手メーカー3社だ。洋上風車の出力は横並びだが、その設計思想には差異がみられる。一方、日本市場への厳しい見方には共通する部分もある。3社の戦略から見えてくるものを探った。(匂坂圭佑)

電気新聞2022年11月30日

※この記事は連載企画「脱炭素の実像・第7部ー風車メーカーの視点」の第1回です。