三菱商事が国内で地域振興事業に乗り出している。主に地方自治体と連携しながら、電力ビジネスやデジタルトランスフォーメーション(DX)分野で事業開発を検討する。大手総合商社といえば、グローバルなビジネスで収益を得るイメージが強い。なぜ今、国内の地域振興なのか。その狙いと戦略を取材した。(荻原悠)

 三菱商事は最近、複数の地方自治体と「地域振興に向けた連携協定」を結んだ。協力項目はDX関連分野が目立つ。熊本県八代市とは2月に締結。水回りなど住宅向けの修繕サービスや、災害時の安否確認、生活情報の共有などに使える「デジタル回覧板」の導入などで協力する。
 

EXとDXで事業化

 
 5月には岡山県倉敷市と協定を結んだ。窓口業務や観光案内、災害時避難など自治体機能のDXで連携。電気自動車(EV)のシェアリング、インフラ整備へのデジタル技術導入なども検討する方針だ。8月末には栃木県那須塩原市とも連携協定を締結した。

自治体と協定を結び、地域振興事業の可能性を探る(写真は那須塩原市との締結式)

 岡部康彦・産業DX部門副部門長兼電力・地域コミュニティDX部長は、「(自治体と三菱商事が)協力することで何ができるかを探っている」と話す。地方自治体の多くは少子高齢化と過疎化、産業弱体化など共通の課題を抱える。他方では「ゼロカーボンシティー」を目指す自治体が増え、クリーンエネルギーへの関心も高まっている。

 三菱商事は5月、2024年度までの中期経営計画で「EX(エネルギートランスフォーメーション)とDXの一体推進による地域創生」を掲げた。脱炭素の潮流、デジタル技術に対するニーズを捉え、再生可能エネルギーや脱炭素燃料の導入、DXを通じた地域活性化を事業として成り立たせたい考えだ。

 これまでに、子会社の三菱商事エナジーソリューションズなどを通じて、国内で再エネ開発や発電所運営を手掛けている。「(金融機関からの)コーポレートファイナンスに頼らない(電源開発の)やり方に慣れ」(岡部氏)ており、地産地消も勘案した分散型再エネ開発のノウハウを持っているという。
 

単体でなく裾野広げ

 
 岡部氏は「再エネ(開発)単体ではなく、グリーン水素や次世代燃料の製造など、裾野をどう広げるか考えると(三菱商事の)強みが出やすい」と語る。再エネ開発や地域のDXは、あくまで起点。その先に、脱炭素関連の新産業や活気ある地域の在り方を提案し、実現していく道筋を描く。

 地域振興事業に取り組む大きなモチベーションもある。三菱商事を中心とする企業連合は昨年12月、政府の洋上風力開発公募で秋田県、千葉県沖の計3海域を“総取り”した。占用期間の30年にわたって円滑に事業を行う上で、立地地域との関係は重要だ。ニーズに応えるソリューションを提供できれば信頼の強化につながる。

 「地域と共に中長期的な視点も入れながら取り組みたい。その中で、さらなるビジネスチャンスも出てくる」(岡部氏)。各地域に共通の課題もあれば、固有の課題もある。現在、10を超える自治体と協力事項を検討しており、様々なケーススタディーを積み上げながら地域振興の事業化を模索していく。
 

岡部副部門長「話し合い事業化探る」

 

岡部 康彦氏

 中期経営計画に基づき、「街おこし」をするという観点から事業化を目指している。自治体の方と、どういった点なら協力できるかを話し合い、(デジタル技術などの)実証実験などを進める。その中で「良い」と思ってもらったサービスを事業化し、収益につなげたい。

 電源開発では、需要地に近い分散型再エネへのニーズが高まっている。地域をどのようにしていくのか、大きな構想の中で開発を行いたい。再エネと独自のグリーン産業を持つ「特色を持った地域」もつくりたい。地域のポテンシャルを生かせば、人口流出などの問題も一定程度、改善できるのではないか。

電気新聞2022年11月10日