2050年の長期を見据えた温室効果ガス排出削減の長期戦略を巡る動きが広がってきた。経済産業省はエネルギー基本計画の見直し作業とともに、2050年のエネルギー政策の在り方に関する検討を進めており、その成果を長期戦略の議論につなげたい考え。経産省と環境省は既に長期戦略に向け、たたき台を提示しているものの、排出削減の手法に隔たりがあるほか、外務省も今年から独自の検討に動き出した。来年度の早い段階で政府部内のすり合わせ作業が始まる見通しだが、調整には曲折が予想される。

 温室効果ガス排出削減に向けた新たな国際枠組みであるパリ協定では、産業革命前と比べた今世紀末の気温上昇を2度以内に抑える「2度目標」が盛り込まれた。締約国は2050年頃を想定した「長期低排出発展戦略」を2020年までに国連に提出する必要がある。

 これに先駆け、政府は2016年5月に「地球温暖化対策計画」を閣議決定した。2030年度の中期目標に加え、2050年に温室効果ガスを80%削減する野心的な計画だ。従来の取り組みの延長では実現は困難とし、イノベーションを生み出し、国内投資を活性化することで国際競争力の強化をもくろむ。
 

国内のみか、国際貢献を含めるか。カーボンプライシングでも対立

 
 ただ、各省の動きは決して一枚岩とはいえないのが実情だ。長期戦略のたたき台として、経産省は2017年4月に「長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書」を策定。国内や既存技術といった閉じた対策には限界があり、二国間クレジットを含む国際貢献を進めたり、低炭素製品の国内外の普及といったアプローチを提唱している。

 また、2017年8月には2050年の視点からエネルギー政策や産業の在り方を探る「エネルギー情勢懇談会」を立ち上げた。現在、見直し作業が進むエネルギー基本計画に議論を反映させるほか、長期戦略にも成果を生かしていくとみられる。

 これに対し、環境省はあくまで国内での長期大幅削減を前提とする立場だ。昨年3月に取りまとめた「長期低炭素ビジョン」では既存技術の最大限の活用を明記。国内で80%の削減を達成した場合、原子力を含む低炭素電源が9割以上を占めるとする「将来の絵姿」も示した。
 両省で、特に隔たりがあるのはカーボンプライシング(炭素の価格付け)の扱いだ。経産省は、産業界が既に重い負担を強いられているとし、効果に懐疑的な見方を示す。逆に環境省は導入に積極的で、同ビジョンの具体化とともに現在、有識者会合で検討を深めている。
 

河野大臣指示の下、議論進める外務省

 
 一方、ここに来て存在感を示し始めたのが外務省だ。河野太郎外相の指示の下、1月9日に「気候変動に関する有識者会合」を新設した。4月にも提言を取りまとめるとしており、急ピッチでの作業が続く見通し。河野外相は「ポジショントークではなく、事実に基づいたデータを積み上げた議論を進め、世の中に発信したい」と意気込む。

 ただ、いずれも原子力の位置付けや石炭火力の扱いなど、具体的な施策に乏しいのが実情で、エネルギー基本計画との整合性も問われる。米国のパリ協定からの離脱表明など、枠組みを巡る環境が変わる中、政府として戦略を明確に描いた上で、主導的な役割を担うことが日本には求められる。

電気新聞2018年1月18日