電力ケーブルを製造する古河電工の千葉事業所

 

 住友電工と古河電工

 
 住友電気工業と古河電気工業が、電力ケーブルの生産能力強化に向けた検討を進めている。大規模投資に踏み切る背景には、国の海底直流送電線計画がある。前例のない距離や製造期間に対応するには現有設備では不十分と判断した。関係者の間では、2社ともに、既存拠点の能力増強で対応するとの見方が大勢を占める。敷設後の製造拠点活用法も含め、敷設ルートや必要量が明確になった段階で投資の時期や規模を具体化する考えだ。

 再生可能エネルギーの大量導入を見据え、国は北海道と本州を結ぶ海底直流送電線を設ける構想だ。現在は2030年代の稼働を目指して計画策定が進んでいる。敷設ルートは日本海側に優位性があるとされており、想定距離は約900キロメートルと世界的にも前例のない長さとなる。電圧に関しても、最高クラスとなる50万V級の採用が予想される。

 電線メーカーにとって、この構想を無事に納入・完工できれば象徴的な実績となり、アピール効果は高い。2社ともに事業可能性調査(FS)の段階から協力しており、受注にも意欲を示している。

 住友電工は決算会見や電気新聞のインタビューで、井上治社長が「(構想に)対応することは使命」と発言。「設備投資をしてでも対応する」と述べている。古河電工は26年度からの次期中期経営計画で、構想に基づく海底直流送電線の製造を電力事業の「主力」に据える方針を掲げる。

 受注に向け、技術面の基盤は整っている。住友電工は、英国とベルギーを結ぶ40万Vの直流海底ケーブルシステムを19年に完工。古河電工も昨年に長期試験などを終え、50万V級の海底直流送電線に関する基本的な技術開発を完了した。
 

既存の工場で

 
 課題は製造能力だ。2社は再エネ電源の導入拡大を見据えて10年代から能力増強に取り組んできたが、構想に対応するには能力が不足する見通し。製造設備の増設が必須で、2社は能力増強に向けた大規模投資に踏み切る。

 新工場の開設も選択肢の一つだが、費用などを考慮すると有力なのは現拠点の増強だ。住友電工はみなと工場(茨城県日立市)と大阪製作所(大阪市)、古河電工は千葉事業所(千葉県市原市)が投資先の候補となる。これらの増強を基本線に、2社は時期や規模、金額などについて精査を進めているとみられる。
 

採算性見極め

 
 ただ、2社が共通して懸念するのは増設した設備が「過剰」となってしまう可能性。長期間にわたって構想向けの専用設備となることが想定されているが、事業者としてはピークアウト後も安定的な稼働が見込めなければ、投資に踏み切ることは難しい。

 2社ともに、ピークアウト後は洋上風力など再エネ電源の連系線需要獲得に活用していく方針だが、まずは長期的に採算性が確保できる最適な規模を見極めようとしている。
(矢部八千穂)

電気新聞2022年10月12日