デジタル通貨を活用した電力取引ビジネスの検討は、暗号資産(仮想通貨)の取り扱いを契機とした資金移動・支払い決済の多様化や、電力取引データのデジタル化の流れを踏まえ、電力および環境価値の取引を中心に適用検討が始まっている。今回は、デジタル通貨を活用したピア・ツー・ピア(P2P)電力取引における決済方法の現状と関西電力の取り組みを紹介する。また次回は、当社が取り組んだ実証実験について紹介する。
 

卒FITの選択肢

 
 P2P電力取引は、個人から個人へ直接電気を供給し、その対価を支払うビジネス形態である。この取引は、いわゆる卒FIT顧客の選択肢として語られる。すなわち、顧客の余剰電力を、電力小売事業者などが卒FIT単価で買い取るか、顧客自身が家庭用蓄電池やヒートポンプ式給湯器などの活用で自家消費を増やすかに加え、P2P電力取引で他人に電気を売るという選択肢を提供(※文末に注)するものである。このP2P電力取引の決済には、デジタルデータの取引に伴う支払いや決済の面で、少額かつ多頻度・複雑な取引が存在することから、キャッシュレス決済を適用することが妥当と考えられる。

 通常の個人の商取引において、支払・決済方法は現金払いの他に、銀行引落・口座振替やクレジットカード払いなどがあり、最近ではQRコード払いもある。これらの支払・決済手段については、資金移動の面で利用料金が生じている。また、支払手段としても現金以外にも、表に示すとおりキャッシュレス決済方法は各種存在するが、利便性の面の検討やデジタル取引データ有効活用の検討など、細心の注意が必要である。

 この点、銀行預金を資産にそのままデジタル的に通貨として活用する形のデジタル通貨には、様々なメリットが考えられる。
 

3つのメリットが

 
 従来方式の対価の支払・決済手段と比較すると、デジタル通貨を電力取引ビジネスへ適用するメリットは大きく3つある。

 1つ目は、P2P電力取引もデジタル通貨決済も分散型台帳(いわゆるブロックチェーン(以下、BC)技術)を活用していること。相互のデータ連携に容易性があり、データの耐改ざん性も高く、セキュリティーや管理運用面で従来システムと比較して大幅なコスト低減の可能性がある。2つ目は、BC技術の特徴である取引履歴がセキュアで正確になるため、誰から誰にどの電気の対価を支払ったという電気の内容のトラッキングが容易になること。3つ目は、BCに組み込まれているスマートコントラクト(契約の自動実行機能)の存在であり、事前に取り決めた契約が、自動的に実行されることで、顧客の要望に応じて、付加価値や顧客サービスが容易に向上可能なことである。

 このようなBC技術の特徴を生かし、当社が取り組んでいるデジタル通貨によるP2P電力取引ビジネスの概念図を図に示す。個人間取引の量と価格を電力取引プラットフォーム上でマッチング・約定させるとともに、取引結果の支払指図を行うことで、清算や決済をデジタル通貨決済プラットフォームと連携して取引を完了させる構成である。この仕組みを活用して取り組んだ結果について、次回、詳しく述べる。

 ※実際には、電気事業法上、電気の販売は小売電気事業者にのみ認められているため、マッチングや約定の面で間に電力会社が介在する必要がある

【用語解説】
 ◆デジタル通貨 デジタル通貨自体に明確な定義は存在しないが、一般的に現金(紙幣・貨幣)ではなく、デジタルデータに変換された通貨として利用可能なもの、あるいは価値をデジタルデータで表現したものを指す。電子マネーや暗号資産などもその一種。

 ◆支払指図(しはらいさしず) 客の依頼にもとづき、客の送金元銀行口座から他の送金先銀行口座へ一定額を送金することを委託するために、関係金融機関に対して発信する指示をいう。支払指図には、電子取引代行業届出が必要、また、資金を移動するには、額や頻度に応じて銀行業認可または資金移動業届出が必要。

電気新聞2022年8月1日