AI新興 フェアリーデバイセズの取り組み

 
 建設や保守の現場になぜデジタル技術が浸透しないのか――。こうした悩みを抱える企業は多いだろう。音声認識や機械学習といったAI(人工知能)技術に強みを持つスタートアップ、フェアリーデバイセズ(東京都文京区、藤野真人代表取締役)が出した答えは、現場作業者を第一に考えたハードの開発だった。(匂坂 圭佑)
 

「熟練工AI」構想

 
 そのハードとは、首掛け型ウエアラブル端末「THINKLET」。わずか170グラムと装着したのも忘れそうな軽量ハードに、超広角カメラと5個のマイクを搭載。音声と映像を現場と事務所で共有し、作業を遠隔地から支援する。データを分析して作業効率の向上にも生かす。将来的にはAIが現場作業者に指示する「熟練工AI」の構想を実現したい考えだ。

 同様のウエアラブル端末としてはヘッドマウントディスプレー、スマートグラスなどが想起されるが、映像がぶれやすく、AIの機械学習には耐えられないという。作業員にとってはディスプレーが邪魔に感じられたりして、安全面の不安もある。

 また、音声に関しては騒音の中でも正確に収集することが求められる。映像と同じく、音声も鮮明な方がデータとしての品質は高く、分析にも使いやすい。THINKLETは、現場で拾った音声の中から必要なものだけを選び取ることができる。

首掛け型ウエアラブル端末「THINKLET」を手にする竹崎取締役

 AI目線だけでなく、現場作業者の目線も考え抜かれている。端末の電源ボタンを入れた後、通信接続の設定、ウェブ会議の入退室といった操作は事務所が遠隔で行う。竹崎雄一郎取締役CSO(最高戦略責任者)は「現場作業者に軍手を脱がせてIT機器を操作させてはいけない。作業者は日々の業務を何も変えなくてよい」と、現場をデジタル化する際のポイントを解説する。
 

見本市で高い評価

 
 現場の実態を知り尽くしたフェアリーデバイセズだが、最初からうまくいったわけではなかった。同社も以前はヘッドマウントディスプレーを開発しており、「作ったからこそ問題点に気づいた」と竹崎取締役は振り返る。2007年に創業し、試行錯誤してきた経験は大きな武器となっている。

 フェアリーデバイセズは世界最大のデジタル見本市「CES2022」で日本企業唯一の3部門同時受賞を果たした。大手企業からの出資を受け、協業も拡大。THINKLETは工場やメンテナンスサービスなどに採用され、大きな注目を集める。

 建設やプラント保守、製造業など、産業界の労働者不足や技能継承の問題は深刻化する一方だ。竹崎取締役は「AIが人の仕事を奪うのではなく、AIの力を借りないと現場が回らないのが実態」と指摘する。機器にセンサーを設置するようなモノのデジタル化ではなく、作業や技術といったヒトのデジタル化によって課題解決に挑む。

電気新聞2022年9月20日