世界1、2の経済大国である米国と中国は、科学や技術開発でも世界を牽引しているが、その技術には直流も含まれる。直流に関わる動向については、日本国内でも導入されている送電分野以外に、配電、需要家レベルで様々な事例がある。直流は電化の促進や拡大のための基礎・基盤技術であり、海外における直流利活用の進展は、想像している以上に速い。この分野における米中の動向を見た上で、我が国の立ち位置を客観視し、次の目標を定める必要があるだろう。
 

信頼性生かし月面基地活用探る

 
 米国では老朽化した電力流通設備の更改や増強が検討されているが、費用、用地確保、また工期の長さなどから困難が伴う。代替案の一つとして、直流マイクログリッドがあり、米企業やサンディア研究所などが、エネルギー省、国防総省の支援を受け、ニューメキシコ州の空軍基地で2019年に実証を開始した。太陽光パネルと蓄電池の組み合わせを基本とし、特定エリア内で複数の設備同士を直流で連系する。負荷には直流をインバーターで変換し交流を供給、また、交直変換器を用い交流と直流との連系も可能にする。

 この実証の成功を経て、直流マイクログリッドは、フロリダ州の住宅街区での電力供給事業として、タンパ電力会社による商用化に移行する。また、月へ人類を送るNASAアルテミス計画の一部に、月面基地のエネルギーシステムに関する研究テーマもあり、高い安定性・信頼性を有する技術として、直流マイクログリッドの展開が期待されている。

 一方、中国では、1989年、同国初の高圧直流(HVDC)送電システム(50万V湖北省葛洲~上海)が稼働し、2007年には国産のHVDC送電(50万V貴州~広東)が運開。中国独自の技術を確立させた。09年、世界初の超高圧直流(UHVDC)送電(80万V雲南~広東)を建設、さらに19年には新疆ウイグル自治区~中国東部の3300キロメートルで110万VのUHVDC送電システムを導入するなど、短期間に直流送電の分野で世界一に昇りつめた。

 

北京冬季五輪に再エネ電気を供給

 
 06年以降、中国は、電圧源コンバーターをベースとする柔軟性多端子直流送電についても、独自で技術体系を築き上げた。14年に5端子20万V直流送電実証を浙江省舟山で開始。その2年後、20万V―15kAの直流高速遮断器の開発・運用にも成功している。20年6月には、張北直流送電が新たに運開した。風力発電、太陽光発電、エネルギー貯蔵(揚水)を4端子で結ぶ柔軟性多端子HVDC送電システムは、北京冬季五輪・パラリンピック会場へ再生可能エネルギー100%の電力を輸送した=図1。こうした豊富な導入・運用実績もあり、中国勢は、23年にドイツの北海で運用開始する洋上風力用直流送電(BolWin6)の変換所の受注を勝ち取った。


 中国は、配電レベルの直流事業も多数手がけており、注目に値する。18年9月に中国初の5端子中圧直流(MVDC)配電事業が、貴州大学のキャンパスで始まった。「エネルギーインターネット」の実現であり、5つの電力変換部を中圧直流で連系、負荷機器へは低圧直流に変換し直流電力の供給を行う=図2。直流系統には、マイクログリッド、分散型電源、EV充電器などが接続される。この開発には、HIL(ハードウエアインザループ)によるリアルタイムシミュレーションが用いられ、多端子直流配電レベルの制御・保護の機能検証など、評価手法を確立している。

【用語解説】
 ◆UHVDC Ultra-high voltage DC 中国では80万Vおよび110万Vの超高圧直流階級を示す。

 ◆MVDC Medium Voltage DC 概ね1500~5万Vの直流電圧、国内の交流6600V~2万2000V配電レベルの設備・応用に該当。

 ◆HIL Hardware In the Loop 設備やシステムの容量・規模・サイズが大きく、また、高価であるなど、制約のある実機試験に代え、実機の制御部のみを用い、電力系統や使用環境などをモデル化し、計算機によりシミュレーション、評価・検証する手法。

電気新聞2022年7月11日