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 東京電力ホールディングス(HD)と東京電設サービス(TDS、東京都台東区、手島康博社長)は、OF(油絶縁)ケーブルの絶縁紙に滞留した硫化銅などの銅化合物により絶縁破壊が起きる「課電劣化」のメカニズムを解明した。経年化した絶縁紙にみられる黒色化の原因を化学的アプローチで突き止め、従来の定説を覆す分析結果を導いた。約8年に及ぶ地道な研究成果は、新座洞道火災の早期原因究明にも貢献した。両社はこの功績から、第65回電気科学技術奨励賞を受賞した。
 

絶縁紙に銅化合物。「炭化」の定説覆す

 
 絶縁紙の黒色化はこれまで、部分放電による紙の焦げ、つまり「炭化」が定説だった。しかし、東電エリア内で2006、07年に起きた絶縁破壊事故のサンプルを実際に見ると、焦げではなく、何かが固まっているように見えた。電気的アプローチでは説明がつかない。08年、TDSが分析し、黒色が銅化合物だったことを確認した。

 TDS変電事業本部分析・診断リサーチセンターの杉本修・地中技術センタースペシャリストは、化学的見地から生成メカニズムの仮説を立てた。導体から溶け出した銅が絶縁紙にしみ出し、誘電泳動により凝集。絶縁油に含まれていた硫黄と合成し、部分放電を繰り返したことで絶縁破壊したのではないか。東電技術開発研究所(現経営技術戦略研究所)とTDSは09年、メカニズムの実証に着手した。TDSは、分析に役立つ材料を入手できる環境にあった。OFケーブルの取り換えを行う工事部隊から経年化した実物を取り寄せ、中身を解体。分析・診断センターで地中線や変電所の絶縁油分析を行うグループからも協力を得た。

 メカニズムの実証に約8年の月日が流れた。研究成果が出始め、電気学会へ段階的に論文を発表していた途上の16年10月。埼玉県新座市の洞道で起きた地中送電線ケーブルの火災により首都圏で最大約37万件の停電が発生した。接続部のケーブルコアの自重による絶縁紙の隙間に油が浸入。通電時の熱によるケーブルコアの伸び出しでより油隙が拡大した。

 ここで課電劣化の研究成果が生かされた。この油隙で黒色化が起き、部分放電による劣化が進行。油隙には、硫黄や銅が溶け出した酸化スラッジや硫化銅が生成されたことを解明した。

 油隙は東日本大震災の地震動でさらに拡大。また、系統切り替えに伴う開閉サージにより、大きな電圧の負担がかかったことも劣化に拍車をかけたとみられる。27万5千Vの基幹系統となれば課電ストレスはより大きなものになる。

 事故発生からおよそ半年で黒色化を含む原因解明が進んだのは、杉本氏らが以前から進めてきた研究によるところが大きい。30年以上経過したOFケーブルで絶縁紙の黒色化が絶縁破壊につながる可能性を示唆するが、その関係性や絶縁油を用いた予測診断法などの検証はこれからだ。

 電気科学技術奨励賞(旧オーム技術賞)は1952年から開始。電気科学技術分野の発明や研究・実用化などで優れた業績を上げた人を表彰する。「電力会社や大手電機メーカーが数多く受賞する中で当社も賞をとれた」と杉本氏。地道な研究が実を結んだ。



電気新聞2017年11月16日