短期→事業者間融通を軸に、長期→米国など案件獲得へ
ロシアによるウクライナ侵攻は、日本の燃料調達をより難しくした。供給不安で石炭やLNG価格の歴史的な高値を記録。数量面でもLNGの場合、即座の脱ロシアは難しい状況だ。政府は中期的には米国などでの権益や長期契約獲得を目指す一方、短期的には事業者間の融通を軸とする考え。不測の事態に備えた予備分を確保するため、資金面も含めて石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じた支援も拡充する方向だ。(荻原 悠)
日本にとって、ロシアは身近なエネルギー輸入先だ。極東地域から日本の各港への所要時間は2~3日。石炭やLNGのピストン輸送も可能だ。石油・天然ガス開発事業「サハリン2」のLNGは日本のLNG総輸入量の約9%(2021年度)に当たり、ロシア産一般炭も総輸入量の約11%(21年度)を占めた。
協力強化したが
火力発電の脱炭素燃料である水素、アンモニアの輸入やCCS(二酸化炭素回収・貯留)事業でも、両国は協力する方針だった。侵攻前の21年9月には梶山弘志経済産業相(当時)がロシアのエネ相と持続可能なエネ協力に関する共同声明に署名。だが、流れは変わった。
先進7カ国(G7)やEU(欧州連合)は侵攻開始から早い段階で「基本的な価値観を共有する国々」として連帯した。日本も西側先進国としての立場を第一とし、対露制裁を強化。4月にロシア産石炭の段階的禁輸、5月には原油の原則禁輸の方針を決めた。
ロシア産原油はスポットでの調達が多く、「代替は十分可能」(市場関係者)との見方が多い。石炭の場合は産地によって性状や品質が異なり、ロシア炭を使っていた石炭火力のボイラーに別炭種をそのまま投入できない。経産省・資源エネルギー庁は炭種の混合なども行いながら、オーストラリアやインドネシアなどを中心に代替を進めている。
最も代替先を見つけにくいのがLNGだ。気化しやすいなどの理由から備蓄制度がなく、冬場の電力需要高負荷期にも国内在庫は2~3週間分程度。需給を監視・予測しながらLNG船を運用し、輸入し続けなければならない。電力需給逼迫などへの対応も踏まえると、サハリン2事業の権益と同事業からのLNG輸入は当分の間、重要となる。
エネ庁はサハリン2からの調達を維持しつつも、中期的な「脱ロシア」を図るために新たなLNG調達先の獲得を模索している。有望なのは米国などだ。25年以降などに既存LNGプロジェクトの大規模拡張案件があり、新規案件も複数。価格面も考慮して、日本企業が長期契約を行えるような環境づくりを目指す。
脱炭素も手伝い
一方、足元のLNG調達は厳しい状況が続く。脱炭素の流れも受けて日本企業が21年に結んだ長期契約はゼロ。オペレーション上の問題などでサハリン2からの供給量が減少するリスクは今後もつきまとうとみられる。
エネ庁幹部は今冬に向けて「不測の事態に備えたLNGの在庫を厚めに持っておく必要がある」と指摘していた。短期的にはLNGを調達する電力・ガス会社間の融通を軸として対応する考え。22日に開いた有識者会合では、事業者と政府でつくる会議体の設立を提起していた。
スポットLNG価格の高騰が続く中、民間のエネルギー事業者が行う追加の燃料調達は赤字拡大のリスクをはらむ。エネ庁はJOGMECを経由した資金面での支援も検討する方向。政府による支援の在り方が今後どのように動くかが注目点となる。
電気新聞2022年8月29日