電力中央研究所が事例調査

 
 電力中央研究所は、電気自動車(EV)の一斉充電で配電系統制約が生じるのを防ぐために、託送料金制度にレベニューキャップを導入した英国の事例について調査した。EV普及で先行する国では、EV充電時間の集中に伴い配電設備の増強工事が増えて、託送料金が上昇している。これに対応するため英国では、EVを充電する時間や場所を分散させる取り組みが進んでいる。
 

配電増強を抑制

 
 英国政府は2020年に、気候変動対策に向けた新政策「10―Point Plan」を発表。洋上風力や水素、EVなどの10項目に総額120億ポンド(当時の為替レートで約1兆6千億円)を投じる方針を掲げた。

 ガソリン、ディーゼル車、ハイブリッド車(HV)の新車販売の廃止方針も打ち出した。EVや充電インフラの普及が進み、充電時間の集中回避や配電設備の増強工事低減に向けて様々な対応が求められている。

 電中研は今回、EV充電の時間や場所のコントロール、つまり分散に向けて英国の配電事業者や政府、地方自治体などが取り組む施策を調査。各施策を、「設備の空き容量に応じた(充電設備の)利用ルールの見直し」「充電インフラの遠隔制御装置設置の義務化」「充電時間の初期設定の義務化」「充電インフラ設置場所の事前協議」など9種類に分類した。

 このうち設備の空き容量に応じた利用ルールの見直しについては、英国でも本格的なルール適用には至っていない。ただ、ガス電力市場監督局(Ofgem)が中心となり、EVから配電系統に電力を供給することで配電系統の増強を回避する実証を実施。EV利用者の協力度合いに応じて電気料金割引などの特典を付与する仕組みを取り入れたところ、配電設備増強の抑制効果が確認された。

 充電インフラ設置場所の事前協議については、英国は配電事業者に積極的な工事を促すため、工事費用をレベニューキャップの規制外としている。その代わりに経済効率や安定供給に貢献する工事計画の策定、設置場所に関する充電インフラ設置事業者などとの事前協議を要請している。
 

社会で最適化へ

 
 英国は15年にレベニューキャップ制度を導入した。15~22年を第1規制期間とし、23年から第2規制期間へ移行する。第2規制期間では脱炭素化に向けた方針の明確化や、事業計画策定に当たってステークホルダーの関心事に注力することを求めている。日本でも23年度から託送料金制度にレベニューキャップが導入され、一般送配電事業者は国の指針に基づいて事業計画を策定する。

 電中研は今回の報告書で、レベニューキャップ導入で効率的な配電設備形成と、脱炭素に向けた充電インフラの整備を並行的に進めることが求められると指摘。「(日本で)どのような取り組みを参考とし、実施するかはEVの普及状況、配電設備の状況による」と前置きした上で、配電事業者や充電インフラ設置事業者といった事業者ごとではなく、社会全体として取り組みを検討することが必要と訴えている。

電気新聞2022年8月25日