地球温暖化防止の意識が高まり、連日、関連のニュースや話題に欠くことがない。海外の取り組み状況では、電気へのエネルギー転換や利用の各シーンにおいて、従来の標準である交流と異なる直流を見直し、有効に活用しようとする動きが出始めている。過去から、電気としての交流と直流は、水と油の関係のようにも思われてきた。見方を変え、身近な真水と塩水との関係に例えれば、調理も電気も、「さじ加減(AC・DCの比)」が決め手になるのではないだろうか。

 日々の暮らしや社会・経済活動のために、電気は最も重要なエネルギーである。今後も再生可能エネルギーの主力電源化、交通・輸送機や熱利用の化石燃料からの転換など、電気利用比率(電化)がより高まると想定されている。

 クリーンで便利な電気は、電気事業者から供給される交流と、太陽光発電や蓄電池に代表される直流の2つの方式がある。研究・技術者、専門家らを除き、一般利用者や需要家は、直流と交流の違いについて、特に意識せず、単に電気として利用しているケースが大半であろう。

 事業としての長い歴史があり、世界的にも標準方式となってる交流ではあるが、身の回りの電気利用を観察すると、意外にも直流の利用が多いことに驚くのではないだろうか。スマートフォンや携帯端末、パソコン、テレビなどの各種電子機器、LED(発光ダイオード)照明や、インバーター式エアコン、蓄電池内蔵の掃除ロボットや掃除機、また、IHヒーターや電子レンジなども機器内部で直流を利用している。太陽光パネルは直流を出力するし、蓄電池を搭載した電気自動車、地下鉄や都市部の電気鉄道も直流方式である。
 

かつては電流戦争

 
 交流と直流の異なる方式は、物語や映画にもなった19世紀末のエジソンとテスラの激しいバトル(電流戦争)があり、過去から対立構造にあった。この当時、交流は、変圧器による電圧の変換が容易で長距離送電を可能とした。一方、直流は、当時の技術では、電圧変換が困難であり、発電所から需要家までの限られた範囲での電力供給しかできず、このことがバトルの勝敗を決定づけた。

 この勝ち負けのイメージや感覚が、そのまま今日まで受け継がれている。例えると、交流と直流は、水と油のような関係であり、決して交わらない異なる物質のように思われてきた。

 ところが、多くの家電・機器類は、コンセント(交流電源)から、ACアダプターや充電器などを介しての使用である。半導体変換技術を用いることで、交流から直流へ変換を効率的で容易にしている。交流も直流も同じ電気エネルギーであり、TPO(時と場所、場合に応じた)、利用シーンに最もふさわしい方式にその状態を変えること、すなわち交流と直流は相互の変換が可能である。
 

休戦を経て協調へ

 
 このことから、直流と交流は、水と油ではなく、淡水と海水のような関係(塩分の濃度は、周波数の違い)で例えることでイメージしやすくなるだろう。真水に塩を加えれば海水に近くなり、海水も処理により淡水を作ることができる。

 我々の暮らしでも調理用、医療用(生理食塩水0.9%)、生態系の維持や海産物などの海洋資源をもたらす海水(約3%)などの塩水と淡水との両方が欠かせない。

 電気の効率的な利用に際しても直流・交流の両方が、適材適所で必要不可欠となる。エネルギーシステムも、時代背景や、技術革新、環境などの変化に対応していく必要がある。

【用語解説】
 ◆直流(DC) Direct Current 真っすぐな電流。乾電池、蓄電池、太陽光パネルが代表例。

 ◆交流(AC) Alternating Current 交互に変わる電流。事業用電源(コンセントからの出力)が汎用的。

 ◆周波数 1秒間に繰り返される交流の波の数を周波数という。周波数の単位はHz(ヘルツ)で表され、日本では50ヘルツ(東日本)と60ヘルツ(西日本)の2種類が使われている。50ヘルツとは1秒間に変化を50回繰り返すということである。

電気新聞2022年6月20日