エネルギー密度が高い石油を中心に近代産業は発展を遂げた。これに伴い、石油を出発原料として化学的に物質を製造する産業、石油を燃やしてエネルギーに変換する物理(熱力学)による産業が隆盛した。後者のような「内燃機関」など熱を使ってきた産業は、脱炭素化の流れで電動機など電気をエネルギー源とする転換を迫られる。それでも産業活動は熱エネルギーを基盤に構築されているため、熱マネジメントはいつの世も重要である。本稿では、MOFを利用した新しい熱マネジメントについて紹介する。
 

電動化しても熱は重要

 
 吸着材へのガス吸着や、冷媒に代表される物質の圧縮は、一般的に発熱を伴う現象である。このような熱は、エアコンや冷蔵庫などのヒートポンプで有効に利用されている=図1。一方、内燃機関を用いる、つまり熱エネルギーを駆動力にして構築された製品は、脱炭素化に伴って電動化が進むと、熱に関する機能を喪失してしまうように見える。

 しかし、電動化の潮流の中でも「熱マネジメント」は非常に重要だ。例えば、電気自動車で有名なテスラの電気自動車の中で最も重要な部品とされているのが、中央集中型の熱マネジメントシステム・Octovalve(オクトバルブ)である。バッテリーやモーター、インバーター、トランスミッションからの排熱を利活用し、外気温が低い時はバッテリーのみを温めるといった最先端のシステムだ。このことは、バッテリー駆動にも熱利用が欠かせないことを示している。

 さて、この連載では、様々なガスや蒸気に対するMOFの吸着・脱離現象を自由自在に制御できると述べてきた。吸着現象は発熱、脱離減少は吸熱と対応するため、MOFを基盤として新しい熱マネジメントが可能となる。

 図2(左)には、一般的な吸着材とMOFの特徴的な吸着特性を示した。縦軸の吸着能力は発熱量、横軸はその発熱量を得るための電気的なエネルギー(作動圧)と読み替えて頂ければよい。MOFは一般的な吸着材と比較して、小さな作動圧で大きな吸着量・発熱量を得ることができる材料といえる。ガスや蒸気のMOFへの吸着・脱離の制御により、発熱・吸熱といった熱マネジメントをより効率的に実現できる。

 例えば、排気ガス中に含まれる二酸化炭素(CO2)をMOFで分離回収すると、同時にMOFは発熱する。容易に熱エネルギーを得ることができるわけだ。図2(右)はSyncMOF社のCO2熱転換装置による発熱量実測例。邪魔者扱いされているCO2だが、熱エネルギーとしての潜在力を持っている。石油からガスへの社会の大転換の過渡期に、新しいビジネスが生まれるのは必然的なことだ。熱マネジメントの分野でも、多くの企業がSyncMOF社とともに「ガス」を使ったビジネスの可能性を模索している。
 

産学の枠組みを超えて

 
 1990年代にMOFが誕生して以来、その種類は数万種類に達し、今なお増え続けている。また多岐にわたるMOFの新しい機能が次々に見いだされ、MOFのナノ空間を利用した、ガス吸着技術の重要性はますます高まっている。SyncMOF社は様々な企業と連携を強化してMOFの膜化や複合化、成型技術に関する研究を推進。MOFデバイスのモジュール化研究、さらには産業的なプロセス研究も加速度的に進んでいる。近い将来、CO2分離材料、省エネ熱デバイスとしてMOFが広く社会に利用される日が来るだろう。産学の枠組みを越え、基礎から応用までシームレスな研究開発を行えるSyncMOF社は、その実現に重要な役割を果たすと認識している。

(全5回)

電気新聞2022年6月13日