需給調整で大きな役割を担う揚水発電が、規模縮小のリスクにさらされている。2030年には稼働から60年以上がたつ揚水発電所が全国に約250万キロワット分あり、廃止や機能停止の可能性が高まっているためだ。経済産業省・資源エネルギー庁は、発電事業者に稼働を継続してもらうため、採算性向上や発電機会を増やす施策の検討を始めた。支援を通じて、事業者に揚水発電の更新、新規開発も促したい考えだ。

 エネ庁によると、国内の揚水発電は42地点、計2747万キロワット(20年度末時点)が稼働する。このうち出力ベースで1割弱に当たる約250万キロワットが30年に稼働から60年を超える。

 水力発電機器はオーバーホールを繰り返せば寿命を延ばせるが、ケーシングなどの固定部で「最大100年」、水車などの可動部で「50年程度」(ともにメーカー関係者)の稼働が目安だ。

 揚水は、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、再エネの出力変動を平準化する電源となる。価値の高さは周知されているが、稼働の継続や機器の更新には、売電量の拡大による収入確保が大前提となる。

 だが、系統安定化のために稼働がピーク時間帯に偏ることが多く、採算性が課題となっている。エネ庁による25年度の揚水発電の収入と費用の試算では、可変速純揚水の固定費を100とした場合、容量市場収入は20。残りの80は市場で回収する必要が出てくるが、稼働時間が限られるため、回収が難しいとされている。

 こうした課題認識は、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(委員長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長・研究所長)で議題にあがった。エネ庁は揚水発電事業者の支援に向け、大量導入小委で下げ調整力を商品化する案を示した。AI(人工知能)を利用した高度な運用で、発電機会と稼働率の向上を支援する案も提示した。

 具体的な支援内容は大量導入小委の検討課題となるものの、エネ庁は「(揚水発電の)規模縮小のリスクは大きな問題として意識している。早急に対策を考えたい」としている。

電気新聞2022年8月8日