来るべくガス社会の到来に向け、ターゲットとなるガスに合わせて構造・細孔の表面測定を自在に設計できるMOFが脚光を浴びるのは、自然の流れであろう。本稿以降ではMOFの基本的な機能である「貯蔵」「分離」「エネルギー転換」を利用した新規ビジネスを紹介していく。今回は「貯蔵」に焦点を当てたSyncMOF社での取り組みを紹介する。SyncMOF社は、ナノ空間(MOF)の建築家である。読者の方々も一緒に、どのような建築物を創れば世界が変わるか想像して頂きたい。
 

高い貯蔵能力で効率的に

 
 ガス燃料はエネルギー資源である。世の中の様々な機器を動かすための動力の源である。そのため、ガスも電気と同じくその動力の源を消費者に安全に届け、利用できるようにすることが求められる。ターゲットとなるガスの特性に合わせ、MOFナノ空間の構造・表面特性を適切に設計することでガスを効率的に貯蔵できるため、その粉体状のMOFをボンベに詰め込むことで大量にガスを運搬できる。経済産業省でも長年「Power to Gas」が検討されているが、これはエネルギーをガスとして貯蔵する試みだ。SyncMOF社では、MOFの貯蔵能力に着目した企業と共同で、新たなボンベ「MOF IoT Gas Cylinder」を開発している=図1

 ボンベ内にMOFを詰めることで既存ガスボンベと同じ大きさのまま、今までの数倍の容量のガスを収容して運ぶことができる。例えば数往復必要だったボンベ配送が1往復で済み、大幅に配送コストを削減可能だ。さらに、IoTデバイスを装着することでガス残量をリアルタイムで「見える化」する。ガスを利用する現場では、ボンベの残圧を人が確認し、残量が少なくなったら発注するというルーティンワークが行われている。一方、配送側では利用状況、つまり受注タイミングが分かないため適切な人材配置が行えない。ガスの利用現場、配送側いずれも課題になっている。「MOF IoT Gas Cylinder」は、そういった非効率な世界を変える、新しいインフラ構築を目指している。

 ガスの種類、時間、温度、圧力といったデータは、ボンベに取り付けられたIoTデバイスを通じてクラウドに蓄積される。残量を知るには通常のボンベでは圧力のみで良いが、MOFにガスを集めるため全ての温度・圧力範囲で特性評価する必要がある。これらデータからMOFのガス貯蔵能力を示す3Dマップを描き「ガス残量」を算出する=図2。このようなデータを計測して取得する装置は販売されていないため、SyncMOF社ではガス物性測定装置開発も行っている。
 

ガス残量とボンベ位置など一括管理

 
 こうしたボンベを企業内の全工場に導入すれば、全てのガスデータが一元管理できる。ガスが漏れている時も自動でアラートを出し、ガス残量が一括で可視化されるので、安全な利用の実現はもちろん、使用量把握や追加発注といった管理も容易だ。また、ボンベにGPSを取り付けることで、ボンベが設置された位置を地図上で確認できる。特定エリアのボンベのガス残量などを、リアルタイムで知ることができるのだ。

 今まで人力に頼っていた、データを「集める」「貯める」「処理する」「表示する」という過程をクラウド上で自動化し、今まで分からなかったデータを可視化する。ガスの貯蔵とはまさにエネルギーの貯蔵のことであり、そのエネルギーはデジタルデータとして「見える化」される必要がある。SyncMOF社では数社の企業とともにガス(エネルギー)のDX(デジタルトランスフォーメーション)化にも取り組んでいる。

電気新聞2022年5月30日