原子力の今が詰まった「サイエンスカフェ」。喫茶店でのアルバイト経験のある学生がいれる本格コーヒーの香りが漂う
原子力の今が詰まった「サイエンスカフェ」。喫茶店でのアルバイト経験のある学生がいれる本格コーヒーの香りが漂う

 今月初旬に行われた東京都市大学世田谷キャンパス(東京都世田谷区)の学園祭で、原子力への関心を育むための「サイエンスカフェ」が“開店”した。同大原子力リスク評価研究室と原子力関連の団体や企業が連携した取り組みで今年が3回目。リーダーを務めた同大4年生で同研究室の村田啓太さん(写真中央)は原子力のあり方を本音で語り合うにはまず知ることが重要と強調する。「知りたいと思える入り口にサイエンスカフェがなれたらいい」と話していた。

 サイエンスカフェは各者のブースで原子力の今を知りつつ、コーヒーを飲んでゆったりと将来に思いをはせられる空間。コーヒーを待つ間に各者のブースを見てもらう構成だ。「原子力ってこんな技術なんだと純粋な好奇心で楽しんでほしい」と村田さん。記者もまずはブースを見て回った。

 出展した日本原子力研究開発機構は次世代高速炉を紹介して原子力の未来を提示。放射線計測などを行う千代田テクノル(東京都文京区、山口和彦社長)は学習用から業務用まで様々な種類の線量計を並べて実演していた。

 原子力発電所の保守管理などを手掛けるアトックス(東京都港区、矢口敏和社長)は福島第一で活躍する除染ロボットの実機を披露。アトックスの担当者は「コストを抑えるために可能な限り既製部品を使うように心掛けた」と開発の工夫を明かした。

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は今年7月に公表した科学的特性マップを持ち込んだ。原子力人材育成・確保協議会は、原子力産業には発電関係だけでなく材料分析やIT関係など様々な人材が活躍していることを紹介。ブース担当者は「昨年の発足以来PR活動を続けているが、会員各社で採用につながるなど成果も出始めた」と話していた。

 学生たちの工夫も随所に見られた。今夏に作成した福島第一2号機の模型を展示。溶け落ちた燃料も模型として再現した。オープンキャンパスで公開するため多くの親子連れも訪れる。大人には模型を用いて学生自ら事故のメカニズムを解説し、子どもには手づくりの省エネかるたを楽しんでもらっていた。

 ブースを回った後にコーヒーで一息つくと、原子力技術には多くの人々の様々な知恵や工夫が息づいていると感じた。そう村田さんに感想を伝えると、まさにその点が今回のコンセプトだと教えてくれた。

 村田さんは「原子力も結局は人が手掛けている。だからこそ人と会って話をしないと信頼関係が生まれない」と指摘。これまで原子力を学んで現状を目の当たりにしてきた実感がこもっていた。このカフェには2日間で500人以上が来場。対話する絶好の機会となったようだ。

電気新聞2017年11月15日付