原子力委員会 岡芳明委員長
原子力委員会 岡芳明委員長

 東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原子力を取り巻く環境が大きく変化した。原子力委員会の役割も抜本的に見直され、2014年12月に新体制でスタートを切った。今年7月には今後の原子力政策について長期的な方向性を示す「原子力利用に関する基本的考え方」を公表。9月には7年ぶりに原子力白書を再開した。原子力委員会の方向性について岡芳明委員長に話を聞いた。
 
 ――新たな原子力委員会の発足から3年を迎える。従来の委員会と役割の違いは。
 
 「核燃料サイクル小委員会での不適切な情報の扱いを批判され、役割が見直された。福島事故に対する国民の怒りを受けたとも考えられる。新たな委員会には、企業や研究開発機関からの出向者はおらず、委員の数も5人から3人になった。司令塔ではなく羅針盤としての役割を担う。問題点を指摘するだけでなく、中長期的な視点で原子力利用がうまくいくように考える。原子力利用をすることは前提として活動しているが、『推進』という言葉はなるべく使わないようにしている。福島事故だけでなく、それ以前から生じている原子力利用の停滞を考察し、改善を図ることがまずは重要だ。個人と組織の創意工夫、経営が生きる原子力利用を目指したい」
 
 ――これまでの活動を振り返ると。
 
 「日本的な集団主義や同調の圧力、稟議(りんぎ)などが共通要因となり、政策や原子力利用の信頼性を低下させているのではないかと思った。異論を根拠とともに述べることが必要で、そこを改善することが重要だった」
 
 ――7月に原子力利用に関する基本的考え方を決定。原子力白書は7年ぶりに再開した。
 
 「基本的考え方の取りまとめに関しては、パブリックコメントで幅広い意見をいただいた。通常は反対意見が多いが、推進側からも意見が届いた点が特長だ。また、原子力白書は行政のアーカイブ。国民や関係機関への説明の役割も果たす。事務局のアイデアとして、囲み記事などで今後の注目点などを掲載し、読みやすくなるよう工夫もした」
 
 ――原子力人材が不足している。現状の認識や課題は。
 
 「世間で語られている課題は、原子力分野の人気や人材数減少など、目先の話になっている。研究機関や大学にいえることだが、必要なのは仕事を通じた人材育成。原子力に魅力がないかといえば、そんなことはない。原子核科学に基づく発展性のある分野だ。科学的な面でも面白いし、政治経済、人文など、社会との関係も様々な部分である。学問的な深みが伝わるよう学生に発信していく取り組みが必要だ。長年、大学で日米夏季交換留学生を世話した経験では、日本の学生の方がはるかに優秀だった。学生は優秀なのに、なぜ差ができるのか。原子力の停滞、事故が生じた根本原因を考え、改善していきたい」
 
 ――今後、原子力委員会のテーマになってくるものは。
 
 「軽水炉長期利用・安全、過酷事故・防災、放射性廃棄物に関して、関係機関が情報交換しつつ、連携を図る活動を進めていく。これまで議論してきたことを実行するとともに、基本的考え方で期待したことをフォローするため、白書も毎年出していく」

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