世界的な産業用ソフトウエア大手の英AVEVA(アヴィバ)は、既に幅広い業界で実績のある設備保全へのサポートをもとに、日本の電力・エネルギー事業者の広範な課題解決を支援する取り組みを進めている。傘下の米OSIsoft(オーエスアイソフト)のデータ管理インフラ「PI System」(パイシステム)を通じ、設備の設計・工事段階から運転までのデータを統合的に活用。コスト削減など経営判断を支援することも可能だ。発電事業者にとどまらず送配電事業者へも展開を広げる、AVEVAの戦略を紹介する。
 

 

PI Systemで保全高度化


設備データで工事や巡視点検などを支援

 
 全面自由化時代における競争力と安定供給の確保へ、日本の電力・エネルギー事業者が抱える課題は広範に及ぶ。AVEVAはPI Systemによる設備データの管理と利活用により現場の保全を高度化するソリューションを展開する。設備データの活用はそれだけにとどまらず、経営全般にわたり様々な判断のベースとなる情報を提供する。

 発電所を例にとると、①設計要件②構成情報③物理構成――が整合する状態を保つ「構成管理」という課題には、「工事支援システム」が対応。プラント建設や改造時において、エンジニアリング会社の設計情報を集約することで正確な現場管理と作業を促す。

 「巡回点検支援システム」は、現場巡視点検や現場作業などのフィールドワークをデジタル化。点検漏れを防ぐとともに、蓄積した点検データの活用も可能にする。また、点検結果や作業状況に応じたリアルタイムガイダンスにより機器信頼性と作業時の安全性を向上する。
 

包括的なソリューション提供に自信


訓練、資材サービス、運転管理などに対応

 
 XRソリューションは仮想現実(VR)をはじめとした様々なエクステンデット・リアリティー(XR)を最適に用いてプログラムを構成できる。これを教育や、現場点検プログラムに応用すれば、リアルな設備と連動するかたちで作業員にヒントを与え、正確な作業を支援することができる。このように「正しい保全」を組織に定着させることで、設備の稼働率の向上とこれまでのノウハウの知識伝承にも寄与する。

 平常時や事故時を想定したオペレーションの習得が可能な「運転訓練システム」も提供可能だ。

 発電所の部材や消耗品などを供給する「資材サービス」に対しては「設備情報連携システム」が活躍する。長期にわたり使われるプラントは、設計変更や現場状況の変化により必要とする資材も変化する。プラント全体では非常に多種多様となる品目情報を一貫して管理することで、最適で経済的な購買を支援する。

 発電所幹部が担う「統合監視・制御」に対しては「運転管理システム」を用意。設備の稼働状況だけでなく、財務、電力市場、需給などの情報を統合し表示する機能を持ち、大型ディスプレーなどへ出力することで最適な設備運営への判断を支援する。

 さらに上位の経営判断をサポートする「経営操業統合ダッシュボード」では発電所の操業情報と経営情報をリアルタイムに統合的に表示する。

「AVEVAのソリューションは事業者の実情に応じた柔軟性ある提案ができる」と話す大谷内氏

 AVEVAソリューション営業本部第2営業部の渡辺浩史部長は「エンジニアリング、オペレーション、メンテナンスに対し、包括的にソリューション提供できるのは当社だけ。今後、現場の設備データを活用した経営の意思決定は日本でも拡大する」と指摘する。

 ソリューション営業本部技術営業部のテクニカルコンサルタント、大谷内翔太氏は「他社のツールも連携できる導入のしやすさも当社の特徴。フルセットでの導入に加え、お客さまのITインフラに合わせて部分的な導入も提案できる」と、その拡張性、柔軟性の高さを生かした提案で電気事業者に貢献したいと語る。
 

設備資産管理、欧州で知見重ね


送配電事業者向け、国内でも積極展開

 
 AVEVAのAsset Performance Management(設備資産管理、APM)はこれまで、電力分野では発電サイドでの採用事例が多かった。一方で、各国の系統運用事業者でも設備の合理的運用による収益確保に取り組む必要性が高まっており、AVEVAは訴求に取り組んでいる。

 オランダとドイツをエリアとするテネットは、そうした送配電事業者の一つだ。同社は陸上に広く分散して送変電設備を保有。さらに近年は、風力発電向けで洋上にも資産が広がっている。「どの設備を、どのタイミングで、どう適切に保全を行うか」が大きな課題に浮上していた。

 これに対しAVEVAは、APMのうちリスクベース保全ソリューションを提供。変電所に導入することで、リスクの観点から保全を最適化。年間保全コストを10%以上節約できた。またPI Systemにより各種機器のデータ取得・分析も行っており、さらにスマートな保全を目指している。

 大谷内氏は「今後、洋上風力開発は日本でも活発化する。欧州は課題を先取りしている」と指摘。日本の送配電事業者に対しても、リスクベースの資産管理により経営の意思決定をサポートするソリューションの提供を、積極的に展開していきたいと話す。
 

世界各国で各企業に合わせ最適ソリューション


保守効率化、技術継承支援などに実績

 

【イタリア】

 
 2020年に全世界へ拡散した新型コロナウイルスは、各国の電気事業者にも業務の変革を迫った。AVEVAのオペレーション支援ソリューションは、誰もが予期しなかったこの事態でも課題解決へ貢献した。

 イタリアの電力大手エネルは、かねて発電所にAVEVAの予知保全ソリューションを導入していたが、これを活用することで、1日で約50%のオペレーションをリモート化。安定供給を保ちながら従業員の防疫対策を迅速に打つことができた。
 

【アメリカ】

 
 米電力大手のアリゾナ・パブリック・サービス(APS)は、5年以内に従業員6300人が定年退職を迎えることから、その貴重な知識を社内にとどめ、新規採用者へ伝承する必要に迫られていた。そこで導入したのが「AVEVA Operator Training Simulator」だった。

 同システムによりクラウドベースの汎用発電所モデルを導入。全ての発電所ごとにカスタマイズされたトレーニングとプロセスシミュレーションを構築した。若手従業員はこれを用いることで移動時間を低減し、スキル向上を図ることに成功。年間3日分の出張を削減し、移動に伴う温室効果ガスの排出削減にもつながった。
 

【オランダ】

 
 オランダの発電事業者のEPZは、同国唯一の原子力、ボルセラ原子力発電所に「AVEVA Asset Strategy Optimization」を導入。設備戦略を最適化することで、運転終了が見込まれる2034年までの安全性確保へ、適切な保全を図っている。

 故障モード・影響および致命度解析(FMECA)をベースに、定量化された重要度、原子力安全、経済性などに裏打ちされた保全活動戦略を策定。それにより信頼性を向上させるとともに、年間5000万ユーロ(約70億円)を節減した。
 

【フィリピン】

 
 フィリピンの発電会社エナジーデベロップメントコーポレーションは、「AVEVA Asset Strategy Optimization」を用い、10発電所の7万5000項目のうち保守可能な約30%で信頼性中心保全(RCM)活動を実施。想定される運転・保全フェーズのリスクと、それらを低減する最適保全方式を明確化し、設備保全計画を最適化した。

 それにより、保全タスクリストを高度化。保全活動の信頼性の向上を確認した。保守部品管理も最適化している。

電気新聞2022年6月30日