グローバルに事業展開する産業用ソフトウェア大手・英AVEVA(アヴィバ)は、日本の電力・エネルギー事業者の課題解決へ向けた提案を強化している。その中で特に注力する予知保全ソリューションは、全面自由化時代の発電所の競争力強化を支援。脱炭素や技能継承といった経営課題の解決にも寄与しうる。海外の事業者での導入事例を含め、AVEVAが顧客企業と共に進める保全高度化への戦略を紹介する。
 

予知保全ソリューション


AIが「兆候」発生原因も分析

 
 日本の電力市場は2016年に小売り全面自由化がスタート。人口減や省エネルギーの取り組みの加速から需要の大幅成長は望めない中、在来型電源の新設への投資環境は厳しく、競争力の確保は高経年プラントを含む既存発電設備の確実な稼働が鍵となる。

 加えて国際的命題である「50年カーボンニュートラル」への取り組みや、現場の高年齢化に伴う技術・技能継承なども課題となる。これらを背景に、デジタルトランスフォーメーション(DX)による発電所運用の高度化は、電気事業者にとってもはや必須事項となっている。
 

データ管理インフラ PI Systemを活用

 
 そこでAVEVAは、20年に買収した米OSIsoft(オーエスアイソフト)が手掛けるデータ管理インフラ「PI System(パイシステム)」により、情報の利活用を強化したプラントライフサイクルを包括的にカバーするソリューションでこれらをサポートしたい考えだ。

 PI Systemは多様な設備からセンサリングによって得られたデータを統合的に記録・管理できるシステムだ。AVEVAの従来のソリューションと組み合わせることにより、これら多様なデータを可視化、一元化し、プラントの設備を最適かつ効率的に運用ができる。さらに今後進むAI(人工知能)や解析をサポートするソリューションをそろえている。

 このうち予知保全ソリューションでは、設備の挙動データから運転停止につながる「兆候」を独自AIが検知。さらに自動で「兆候」が発生した原因を分析する。それを迅速に通知することで設備運営の判断を支援する。

「AVEVAのソリューションは、国内事業者の課題解決に貢献する」と語るソリューション営業本部第2営業部の渡辺浩史部長

 これまでも様々な保全対策がなされているが、AI解析をベースにトラブル予知だけでなく原因分析まで踏み込んだ保全は画期的だ。特に導入が急拡大する再エネは分散型電源としての性格が強く、火力や原子力のように労働集約型の体制による保全は難しい。その一方で、事業性確保には安定的な運転が求められる。AVEVAソリューション営業本部第2営業部の渡辺浩史部長は、「予知保全ソリューションはこれら課題に対応し、プラントを自律的に動かす仕組みづくりに貢献できる」と話す。
 

50年カーボンニュートラルにも貢献

 
 予知保全ソリューションは脱炭素にも貢献しうる。50年カーボンニュートラルへ向けて火力設備での水素、アンモニア混焼・専焼に取り組む方針を示すプレーヤーは複数存在する。このとき、懸念されるのが既存設備で想定しない燃料を使用することによるトラブルの発生だ。これを予知することで、安心して事業を推進することが可能になる。

 少子高齢化による人材確保の困難化や、社員の年齢構成の偏りによる技術・技能継承の困難化も、日本のエネルギー事業者が抱える保全業務での大きな課題の一つだ。AVEVAはそうした課題にも対応。「熟練技術者による属人的な、マニュアル化されていない知見」といった伝承が難しい技術・技能を、プラントデータからマニュアルやアーカイブ化ができる。
 

保全戦略の進化


5段階ピラミッドで「改革」支援

 
 安定供給の維持、競争力の確保、脱炭素への対応、技術・技能継承といった課題解決へ、日本のエネルギー・電力事業者はかねて設備保全の高度化へ取り組んでいる。AVEVAはその進化を5段階のピラミッドで捉え、事業者の保全改革をサポートしていく方針だ。

 まず、いずれのプレーヤーも既に取り組んでいる保全活動を「(1)事後対応的保全」と位置付けた。設備が故障した段階で、修繕や再発防止に取り組むというもっとも基礎的なやり方だ。

 続いてが「(2)予防保全」。自社や他事業者による設備利用に伴って観測された不具合情報などの統計データに従って、不具合が起きる前に設備を交換するなどの措置を講じる手法だ。

 次の進化が「(3)状態基準保全」だ。データに基づき予想される不具合発生に備え対策を打つという点で「(2)予防保全」と共通するが、(2)が「時間や期間」を基準とするのに対し、(3)は「設備の状態」を基準とする。具体的にはセンサーによる状態監視により得たデータの値が、一定のルールで標準を逸脱した場合に対策を講じる。

 次の「(4)予知保全」以降が、AVEVAが事業者による理解と導入を広げていきたいと考えるステージだ。センサーデータをAIなどにより分析。より精緻に不具合・故障を予測し、保全活動へ反映することで最適化し、保全コストの削減につなげる。

 そして「(5)リスクベース保全」は、設備単位ではなく作業項目単位で不具合・故障のリスク(起きた場合の損害)と頻度を定量化。これまでの保全では考慮外であることが多かった損害の大きさを「リスク」として考え、過不足のない、最適な点検頻度を検討することで、よりコストの低減が図れる。

 AVEVAソリューション営業本部の渡辺氏は「ピラミッドの上に行くほど高度で最適化された保全であり、保全担当者だけでなく、経営戦略者にも貢献する」と指摘し、(1)~(3)が「戦術的」であるのに対し、(4)、(5)は「戦略的」な保全だと説明する。これまで複雑に組み合わされてきた保全対策の最適化ができ、管理者の負担だけでなくコストも軽減する。今後、設備の老朽化に伴い増大するコストと設備寿命をできるだけ伸ばすことが求められ、保全の見直しは最重要課題の一つとなる。
 

海外導入事例 フランス EDFグループ


原子力、火力、水力、再エネなど統合的に監視管理

 
 フランス電力(EDF)グループは原子力を中心に多様な発電事業を世界各国で展開する。同社はPI Systemと、そのデータを基に予知保全を行うソリューション「AVEVA Predictive Analytics」を導入している。300以上の原子力、火力、水力発電所のほか、再エネ、地域熱供給システムからデータを収集。地域ごとにフランス国内に5つの監視センターを設け、事前に異常を検知して安定供給につなげている。

AVEVAの保全支援ソリューションは原子力から再エネまで幅広い設備に対応する(写真はEDFリニューアブルズが米国で運営する風力発電所)

 日々稼働する発電設備は、常に計画外停止につながる何らかのトラブルの可能性を抱える。設備の挙動に関するデータをリアルタイムに解析することでそうしたトラブルを抑止し、設備の損壊や、売電機会の逸失を回避。事業の収益性向上に貢献する。EDFでは早期警告1件当たり150万ポンド(約2億4千万円)を節約しているという。

 また北米エリアを中心に再エネ発電事業を手掛けるグループ会社のEDFリニューアブルズもかねてPI Systemで発電設備と電力貯蔵設備から運転データを収集していた。これに予知保全ソリューションを組み合わせることで、運転停止による損失額を加味した保全計画策定をサポート。遠隔地にある風力発電所への移動や高所への昇降作業の回数を抑え、コスト削減に寄与している。

 AVEVAの予知保全ソリューションはこのように多種多様な発電方式の設備を統合的に監視管理できる。センサーデータを管理し、発電機、タービン、ポンプなど設備の部位ごとのデータセットをテンプレートに基づき作成、解析することで、正確で迅速な警告を発出。監視技術者はタブレット端末などで分かりやすいインターフェースによりそれらを認識でき、EDFグループを含む世界中の電力・エネルギー企業で導入効果が出ている。

電気新聞2022年6月15日