カーボンニュートラル社会では再生可能エネルギーや電気自動車(EV)など分散電源が大量導入される。再エネは天候や時間により発電量が、EVや蓄電池はユーザーの使い方により充放電量やタイミングが変動する。安定な電力システムの維持に向けて、今後は電力事業者に加えてEV・蓄電池メーカー、アグリゲーターなども、自身の設備やサービスの不確実性がもたらす影響の把握、対応策検討が不可欠だ。その検討手法として「ユニットコミットメント」の活用を紹介する。

 一般にユニットコミットメント(UC)とは、発電機の出力変化速度や予備力確保など電力需給運用上のルールを満足し、翌日の電力需要と均衡可能な発電機の運用計画を作成することを指す。つまり日々の需給計画策定の中でUCは実施されている。構造計画研究所(KKE)は、およそ50年に渡りオペレーションズ・リサーチを活用した技術コンサルティングを行ってきた。本技術を活用して東京大学生産技術研究所の荻本和彦教授と共同でUCを模擬するツール「KKEUC」を開発した。
 

再エネ変動など予測誤差の影響分析

 
 KKEUCは翌日の需給計画策定に加えて、当日の需給運用を30分刻みで模擬する。図1はシミュレーションの流れと入出力データのイメージ。前日のうちに電力需要や再エネ出力予測に基づき翌日の需給計画を作成し、当日の電力需要や再エネ出力が予測から変動した際の需給計画の変更も模擬できる点がKKEUCの特徴だ。前日段階で作成した需給計画と当日の需給運用シミュレーションの結果比較により、予測誤差といった分散電源の不確実性が需給運用へ与える影響の分析ができる。


 KKEUCを用いたシミュレーション例を紹介する。東北・東京エリアに、太陽光発電が7800万キロワット、風力発電が2600万キロワットと大量導入され、1300万台の乗用車がEV化した将来の電力システムを想定。(1)単なるEV導入(2)充電タイミング管理・制御の社会実装(3)系統側に電力供給する充放電制御の社会実装――の3つのシナリオについて需給運用を比較した。(2)(3)では、1日の運用コストが最小になるように充放電タイミングも最適化対象とした。日々の気象条件により電力需要、再エネ出力などは変化するため、1年間分をシミュレーションした。


 その結果、EVの充電や充放電を最適化すれば再エネの出力制御やピーク需要の低減ができることが分かった。年間で再エネの出力制御率は充電制御シナリオで3ポイント、充放電制御シナリオでは8ポイント減少。それに伴い、火力発電の稼働が減り、運用コストは充電制御シナリオで6%、充放電制御シナリオでは16%減少した。

 図2は、太陽光発電からの出力実績値が予測値を大きく上回った日の充放電最適化シナリオの需給運用結果。EVの充放電スケジュールを当日柔軟に変更して再エネの出力制御を回避し、火力発電の稼働を減らしており、充放電制御の社会実装が有用であることが分かる。運用コストを比較して、その経済性、事業採算性も検討可能だ。
 

調整力算定など欧米は積極活用

 
 こうしたUCを活用したシミュレーションは欧米の系統運用機関や研究機関などでオンラインの運用や各種検討に積極的に実施されている。彼らは、需給運用の信頼性確認、必要調整力の算定、送電線混雑の机上検討をはじめ、近年は水素など新燃料導入検討にも活用している。我が国でも、電力システムへのEVや蓄電池、デマンドレスポンスの活用への期待が高まっており、UCを用いたシミュレーションの必要性や価値を感じていただければ幸いである。

【用語解説】
 ◆ユニットコミットメント
 電力系統に接続された数百台の各発電機の起動・停止のタイミング、その時の発電量の組み合わせの中から、需給運用に必要なルールを守り、電力需要とバランスできる最も経済的な発電機の起動停止計画を算出すること。複雑に絡み合う多数のルールを同時に考慮し、速く正確に算出するためには、オペレーションズ・リサーチの知見が必要とされる。

 ◆オペレーションズ・リサーチ
 企業や社会活動の仕組みを数学的にモデル化し、現実に適用できる最も効率的な解決策を見出すための科学的技法。最適化の科学とも呼ばれる。

電気新聞2022年3月28日