パワー半導体を用いて電力の変換、制御を行うパワーエレクトロニクス技術。ハイブリッドカーや電車などのモーター制御をはじめ、太陽光や風力発電で発生した電力を安定的に効率よく取り出して送配電線に連系する電力変換装置など応用分野は拡大し、社会を支える基盤技術として重要性が高まっている。山口大学パワーエレクトロニクス研究室(山口県宇部市)の田中俊彦教授は「国立大学として国民に成果を還元したい」と話し、学生とともに実用化を見据えた研究に力を注ぐ。

EV用スマートチャージャーのミニモデルによる実証に取り組む学生
EV用スマートチャージャーのミニモデルによる実証に取り組む学生

 主要国における自動車分野の環境規制の強化により、電気自動車(EV)へのシフトが加速することは避けられない。研究室では、EVの普及に伴い、家庭などで設置が進むと見込まれるEV用充電器に着目し、電力品質保証機能を付加した「EV用スマートチャージャー」をテーマの一つとして取り組んでいる。
 研究室によれば、現状の一般家庭での電力消費状況を考えると、家庭に電気を配電するために使われている柱上変圧器で電力の損失が最大で4%程度増加すると試算。その損失をいかに低減させるかを検討した結果、充放電が可能なEV用充電器に電力品質保証機能を付加することにした。EV用チャージャーを用いてEVの蓄電池を充放電する際に、電力品質保証機能によって家庭から発生する無効電流や高調波電流を補償しない、きれいな電気が供給できるという。これにより、柱上変圧器は国内で膨大な数が設置されていることから、1台当たりの損失低減効果は少なくとも国内全体では膨大な損失の補償が可能となり、省エネにつながるとしている。田中教授は「電力品質保証機能の付加はソフトウエアで対応できるため、特別な手間はかからず、市販の充電器に組み込むことも容易」とし、実用化への手応えを示す。

 ◇微小金属を検出

 研究室では、ノートパソコンなど相次ぐ電子機器の発火事故にも、パワーエレクトロニクス技術で解決に導こうと知恵を絞る。機器の発火は、リチウムイオン電池の発熱・発火に起因する。
 同電池の材料の一種であるプラスチック製の高機能フィルムの製造過程で、直径100マイクロメートル(1マイクロメートル=0.001ミリメートル)レベルの鉄やステンレス片などの微小金属が混入するのが原因だ。このため、混入した微小金属を事前に検出する技術が必要となる。
 研究室では検出法として、誘導加熱コイルと高周波インバーターによって、フィルム内の小金属を加熱、サーモグラフィックカメラで確認できる誘導加熱方式を考案した。鍵はインバーターで使用する半導体素子。既存のシリコン系では、求められる大電力出力が難しいため、それに代わる「400キロヘルツSiC―MOSFET(金属酸化膜シリコン電界効果トランジスタ)」を採用した。
 同半導体素子を使用したインバーターの動作実験などを行ったところ、高周波駆動と大電力出力において有効性を確認。誘導加熱コイルの課題も克服し、小金属検出技術として実用化可能と判断した。「電池の発火事故を撲滅する」を合言葉に、今後はミニモデルを使って、連続的に検出できるかどうかを検証していく。

 ◇多くの人材輩出

 研究室に所属する博士後期課程の女子学生は「パワーエレクトロニクスは生活に身近な分野。研究はうまくいかないことも多いが、その分、想定した結果が出た時のうれしさは格別」とし、将来も研究を続けていきたいと話す。
 田中教授は今年3月、電気学会中国支部長などを歴任し、地方国立大学における博士人材を継続的に輩出した功績が高く評価され、電気学会フェローに認定された。今後も、研究室から数多くのパワーエレクトロニクス技術者を送り出していく意気込みだ。

 

 ◆研究室概要

2017092607_02

 パワーエレクトロニクス研究室は、山口大学大学院創成科学研究科工学系学域電気電子工学分野(工学部電気電子工学科)に置かれている。教員は田中教授と山田洋明講師の2人。学生は博士課程5人、修士課程13人、学部生8人の26人が所属する(9月時点)。企業との共同研究課題も多く、海外での研究発表にも力を入れている。伝統的に研究熱心な学生が多く集まる。
 

 ◆田中俊彦教授の話

2017092607_03

 知的好奇心はもちろん大事だが、研究成果が実用化されて、社会の役に立つことが最も大切。そのためには、常に世の中の動きを意識しておかなければならない。研究室の学生には、米国電気電子学会(IEEE)主催・共催の年次会議や国際会議で自ら発表することによって、世界の風を肌で感じてもらい、将来のことを考える機会になればと思っている。