カーボンニュートラルに向けた再生可能エネルギーの大量導入など、電力システムのさらなる複雑化により、1年間・8760時間ごとの電力需給解析が必要となってきた。この解析を起点に、需要や太陽光・風力発電出力の予測誤算を含めた詳細解析や蓄電池、電気自動車(EV)、給湯機など需要家サイドの解析が行われる。本稿では、高速解析を実現するツールである広域需給調整プログラム「MR」および日本の電力システムを対象とした計算例を紹介する。
 

365日分の燃料費最小化計算

 
 広域需給調整プログラムMR(マルチエリア・レギュレーションプログラム)は、将来を想定した電力需給模擬を実現するプログラムだ。複数エリアで構成された連系系統を対象とした解析においては、考慮すべき様々な制約(各エリアの需給バランス、各発電機の出力上下限、連系線容量、需給調整力要求量、系統慣性閾値、マストラン、定期補修、揚水の池容量など)がある。これらの制約を満たしつつ、経済負荷配分の1日(24時間)単位の最適化、つまり燃料費最小化を図る。最適化により各エリア・各日の各発電機負荷配分、各系統間の時刻別連系融通量、各時刻の連系線活用を含めた需給調整力運用、各時刻の再エネ抑制、各時刻の系統慣性などが決定される=図1。この最適化計算を365日分実施することで1年間のシミュレーションを実現している。


 最適化部分には数理最適化ソルバー「Gurobi Optimizer」を使用して高速計算手法を開発し、適用している。

 MRによる解析の例を紹介する。需給シナリオは第6次エネルギー基本計画をベースに、2030年における全国の電力システム(9エリア連系系統)の需給モデルを構築した。データは、21年4月時点の発電・小売り・送配電事業者の供給計画やプレスリリース、環境アセス計画手続書などの公開情報より作成した。再エネは太陽光1423億キロワット時(1億1400万キロワット、設備利用率14.2%)、風力515億キロワット時(2190万キロワット、設備利用率26.8%)、水力858億キロワット時、地熱70億キロワット時、バイオマス470億キロワット時とした。解析の結果として、時刻別に発電機ごとの発電電力量、再エネ抑制量、揚水・EV・蓄電池の充放電などが得られ、これを基に24時間の需給バランスが作成できる=図2


 需給バランスでは、各時刻の電力需要に対する発電種別ごとの発電配分が示される。需要を上回る部分は再エネ抑制、マイナス側は揚水・給湯機・EVの充電を表している。これにより1日24時間の需給状況を分析することができる。図2の例では太陽光発電が大きくなる昼間に抑制が多く発生していることが分かる。また、マイナス側の深夜~早朝は給湯器の沸き上げ、昼間は揚水、夕方~夜はEVの充電が行われている。

 このほか、時刻別、月間、年間および発電種別、エリア別などの区分けで費用(燃料費、起動費)、二酸化炭素(CO2)排出量、系統慣性、連系線融通、市場価格なども得られる。さらに将来の様々な想定に対するシナリオや需給条件を変化させ、条件に応じた需給状況の把握や様々なケース比較が可能となる。
 

解析結果、他ツールに展開へ

 
 MRの電力需給解析結果は、全国大、エリア大の電力需給における様々な状況の概略的な把握につながる。そしてさらに、この解析結果を利用して、需要やPV・風力発電出力の予測を扱うツール、UC(ユニット・コミットメント)による予測誤算を含めた設備計画、運用計画、実運用への適用(第3回掲載)や、蓄電池、電気自動車、給湯機など需要家サイドのデマンドレスポンス(DR)の価値評価(第4回掲載)などが可能となるなど、様々な電力需給の解析・評価に展開が可能である。

【用語解説】
 需給調整力
 需要と供給を常に一致させる必要があるため、需要および再エネの変動に対して火力、水力、揚水などの出力調整幅を確保する。

 系統慣性
 火力発電所などの同期発電機では、ローターが運動エネルギーを蓄えており、電力系統の障害などで瞬間的に発生する電力の過不足分を吸収または放出できる。

 経済負荷配分
 発電費用の経済性を考慮して、全火力発電の必要発電量に対し、各火力発電機の出力配分を決める。発電機によって燃料費特性が異なるため、配分最適化の余地がある。

電気新聞2022年3月14日