ソリューションでプラント運用の高度化を支える(写真左が小暮氏、右が萩原氏)

 

時代のニーズ踏まえ プラント運用最適化

 
 アセットマネジメント(資産管理)や設備設計を含むプラントライフサイクル向けソリューションを提供する英AVEVA(アヴィバ)。2021年3月にデータ管理インフラ「PI System」(パイシステム)を持つ米OSIsoft(オーエスアイソフト)を買収し、データ利活用を強化した。また電力・エネルギー業界向けでは発電事業者に加え、送配電事業者向けの提案も強化している。
 

データ管理プラットフォーム PI System


設計から保守、一気通貫強み

 
 AVEVA日本オフィスは1998年に設立し、設計、オペレーション、保守に関するソリューションを石油、化学業界やプロセス産業向けに提供してきた。

 さらなる事業強化に向けて、AVEVAは昨年3月にOSIsoftを買収した。データ管理プラットフォームであるPI Systemがソリューションに加わり、提供するソリューションが強化された。

 AVEVAバイスプレジデントで日本統括の小暮正樹氏は「当社は設計からオペレーション、保守までプラントのライフサイクルをカバーする唯一の会社となった。プラント運用の重要なポイントとなる情報管理と利活用に実績があるPI Systemの統合によるメリットは大きい。国内外での導入事例も多く、今回の統合によるシナジー効果が既に見えている。これからさらに国内事例を発表していく予定だ」と述べる。


 PI Systemは経済産業省電力安全課の「保安技術の高度化」検討において、先進的な保守管理技術の一つとして取り上げられた。経済産業省・資源エネルギー庁に設定された「電力インフラのデジタル化研究会」の委員にも参加し、最初の導入から3~4年で急速に導入が進んだ。日本国内では火力発電所などに導入され、現在まで大手電力会社10社に導入されている。

 PI System事業本部長の萩原輝彰氏は「今は各社の発電所のデータを収集している段階。これからデータを活用して、お客さまの設備運用に貢献していく」と先を見据える。

 電力分野ではこれまで発電部門の採用が中心だが、今後送配電部門にも提供していく方針。既に国内の送配電事業者に納めた実績があり、萩原氏は「国内で着実に導入が進んでいる。海外では送配電事業者と系統運用事業者を合わせて約200者に納めている。こうした実績を発信し、系統運用でもPI Systemの有効性を感じてもらいたい」と話す。

 

コンセプトは「低炭素化」「循環型経済」「災害に強いインフラ」


ソリューション提供、繊細に

 
 AVEVAのソリューションは、多くの企業で取り組んでいる「低炭素化」「循環型経済」「災害に強いインフラ」の3つのコンセプトで構成されている。低炭素化については、各種データの分析でプラントの運用最適化ができれば、温室効果ガスの排出を抑えられる。再生可能エネルギーの発電量増加や水素製造量の最適化にも寄与する。今後本格的な導入が見込まれるCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)の設備情報も集めることで、環境負荷を抑制する。

 プラントにおける低炭素化のニーズは近年特に高まり、デジタル技術を排出削減の鍵にする企業も多い。小暮氏の耳にも顧客の声が届いており、「脱炭素化を一つ部署の課題ではなく、経営課題としてとらえているお客さまが増えた。とはいえ温室効果ガスの排出を一気に抑える魔法はない。お客さまには一つ一つ設備データを集め、可視化、管理し、温室効果ガスの排出を抑える運用方法を見つけましょうと提案している」と話す。

 循環型経済については、設備の適切な活用、プラントの運用改善で、廃棄物の排出削減を支援する。産業廃棄物の増加は日本に限らず世界的な課題だ。化学プラントなどは、運用を変えるだけで廃棄物や環境への影響を減らすことができる。どの企業も今後、重点的に取り組むことが求められている。

 設備の長寿命化も廃棄物の削減に寄与する。火力発電所などの機器をデジタル技術で分析することで劣化部分が判明し、適切な保守が可能になる。健全性を長期間維持できれば設備投資を抑えられ、資産のパフォーマンスを最大化できる。多くのプラントが老朽化していく中、電力系統設備も発電設備と同様に、健全性を維持し続ける効果は大きい。

 近年多発する災害への対策も重要だ。レジリエンス(強靱性)の強化に必要なインフラ設備を提案し、顧客の事業継続を支援する。

 この3つのコンセプトに、AVEVAはPI Systemを含むソリューションでプラントのライフサイクルを一括で管理。運用を最適化するほか、信頼性と持続可能性を向上させる。PI Systemのデータを最大限に活用するプラント全体サポートのニーズも高い。

 またAVEVAが最も重視するのが「カスタマーファースト」だ。現場や本社など様々な部署にメリットを提供する。このビジョンを基にAVEVAは幅広い範囲でプラントサイクルソリューションを構築してきた。規模を問わず包括的、部分的にも他社のツールも含めて連携できる。顧客の短期的、長期的なプラント運用に対応している。
 

国内大手電機メーカー、IT企業らとの連携重視


送配電事業者向け提案も強化

 
 AVEVAが受注実績を重ねる上で、重要視するのが他社との連携だ。これまで国内大手電機メーカー、IT企業らと提携してきた。伊藤忠テクノソリューションズや三井物産子会社の三井情報などとも連携し、インフラ向けにソリューションを提案する。

 PI Systemを採用し、さらなる展開につなげているのが関西電力だ。データ分析から編み出した運用方法の知見を蓄え、「K―VaCS(ケイバックス)」のブランドで他社のプラント運用を支援している。萩原氏は「発電部門から利益を作り出す好事例」とたたえ、さらなる広まりに期待する。

 発電事業者に加えて送配電事業者にも提案する。北米では独立系統運用者(ISO)や送配電事業者にPI Systemを納めている。再生可能エネルギーの導入は米国が先行しており、系統安定化の課題は日本と共通だ。

 国内に点在する変電所の設備データを監視すれば、健全性を把握でき、設備の長寿命化に役立つ。また遠隔監視により、保守員が変電所に向かう回数も減らすことができ、人材不足などの課題にも対応する。

 小暮氏は「DX(デジタルトランスフォーメーション)、脱炭素、人材不足、データ管理と活用、コスト削減や保全の最適化など様々なキーワードはあるが、従来の課題は名前を変えてそのままお客さまの目の前にある。これらへの取り組みも急務だ。またここ数年、世界でデジタル化へのシフトが急激に進み、新しい技術が導入されている。国内だけではなく、国外にも目を向け、海外に対し競争力を保つことが社会全体の持続可能性につながる。AVEVAのプラントライフサイクルを網羅するソリューションでお客さまの現在の課題や、持続的な発展に貢献していきたい」と語る。
 

AVEVA株式会社

 東京都港区芝浦2―15―6 オアーゼ芝浦MJビル
 ウェブサイト : http://www.aveva.com/ja-jp/
 連絡先    : Inquiry.Japan@aveva.com

 
電気新聞2022年5月10日