インフラ業界では設備の高経年化、人財の高齢化とその長期的な不足、技術・技能伝承力の低下に加え、災害の激甚化やテロリスクに対応するため、これまで以上に効率的な人財育成が求められている。「『XR技術』で技能継承」最終回の本稿では東京電力パワーグリッド(PG)人財開発室におけるMR技術を活用した人財育成の効率化について具体的な取り組みを紹介する。

 東電PG人財開発室では、社員の技術・技能の維持向上を目指して様々な人財育成カリキュラムを実施している。コロナ禍においてはリモート研修体制の構築を急速に進める一方で、現場スキルの維持向上のため実際の機器を使用可能な研修施設の整備も継続している。

 実際の機器を使用した研修の場においては見えづらい、あるいは見えないものを分かりやすく説明、指導する難しさが課題となっていた。密閉機器は内部が見えないため、内部構造や動作メカニズムを指導する際には取扱説明書や映像に加え、縮小化したカットモデルを用いているが、機器内部が見えているわけではないため間接的となる。受講者が講師の意図を十分に理解するためには想像力が必要であり理解度にはバラつきがあった。

電線へのCG着色で電気の流れ、雲状のCGで安全距離を可視化(MRデバイス映像)

 そこで、東京電力ホールディングス(HD)経営技術戦略研究所と協働で最先端技術であるMRを活用した研修コンテンツを作成して効果を検証した。研修コンテンツとして、ガス遮断器の内部構造、電路の停止・使用操作における電気の流れ、安全距離、飛来物への対応などについて可視化した。電気の流れと安全距離の可視化ではガス遮断器や断路器、リード線で構成される研修設備にMRを使って電気の流れのアニメーションや安全距離の3次元CGを重ねて投影した。
 

講師の意図、明確に可視化

 
 従来の研修において受講者は講師の説明を頭の中でイメージして理解しようとしていたのに対し、MR技術の導入により講師の意図が明確に可視化され、直感的な理解を実現した。実際にガス遮断器の内部構造コンテンツを体験した若年層社員からは「タンクが透けて内部が見えているようでびっくりした!」との声もあった。

MRデバイス上で現実のガス遮断器に内部の仕組みをCGで投影(中央部)し仕組みを可視化できる

 次に、ガス遮断器の他に断路器や接地機構部などを一体化したガス絶縁開閉装置へ展開し、より複雑な機器を題材に検証した。MRで内部構造、外部診断時の異常模擬、遮断動作時の機構動作や六フッ化硫黄(SF6)ガス吹き付けによるアーク消弧、さらにバルブ操作によるSF6ガス圧力変化を可視化した。

 アーク消弧のコンテンツでは高価な機器カットモデルを導入しても指導することが難しかった遮断器内部ガス流とアーク消弧のメカニズムを実際の機器にアニメーションを投影することで可視化した。講師は受講者とアニメーションを共有し、任意のタイミングで一時停止と再生を繰り返すことにより短時間で的確な指導をすることが可能となった。

 バルブ操作コンテンツでは受講者が自ら作成した手順書でバルブ操作を実施し、バルブ操作の結果が手順ステップごとに区画単位のガス圧力変化として可視化される。バルブ操作を間違えた場合、想定していない区画のガス圧力変化が可視化されるため、操作時に一目瞭然で間違いに気付くという仕組みだ。
 

より参加型の研修へ進化

 
 今後は研修カリキュラムや各種見学会対応にMRコンテンツを組み込み活用していく予定である。MR技術は見えないものを分かりやすく説明、指導することを可能にする。これにより受講者の理解度は高まり、より参加型の研修へ進化していくことが期待される。

(全4回)

電気新聞2022年2月28日