電力業界の第一線現場における課題である「省人化」「技能継承」。これら課題への対応推進時にXR技術を活用するためには、VR/AR/MR各技術の特性を把握して適材適所の使い分けを行うことが重要である。今回と次回最終回を通じて、電力業界での運用事例を元に業務改善のヒントを提示したい。

 電力業界では、2018年頃からXRの業務適用検証が活性化してきている。他の業界とは逆の流れとなるが、MR技術の着目につられてVR/ARも注目・業務適用開始が始まった。

 まずはXRの各技術の特性を見てみよう。実は昨今ARとMRの垣根はなくなってきている。どちらの技術も今ではSLAM処理(第2回参照)を用いて空間認識・自己位置特定を行うことができるようになっている。20年にアップル社がiPadやiPhoneのカメラシステムにLiDARセンサーを搭載し、ARのMR化が進んだ。異なるのは、MRのように両眼立体視ができるかどうか・HMDによるハンズフリー作業が可能かどうかの2点のみ。そのため、XRの業務関連を考えた時、「AR/MRを使うべきか」「VRを使うべきか」という観点で考えれば良い。
 

温度の異常を警告

 
 電力業界へのXR適用について、まずは実現場へのMR活用の観点から話をする。例えば電気工事の現場の大半は、決まった場所での定期点検などの業務よりも一品一様の現場作業が多い。このため事前に作業手順を定義・マニュアル化して現場で活用することが難しく、ツールとしてのMR活用が中心になる。関電工では、電気盤の異常発熱による火災事故を防止するためにサーモカメラを用いた点検業務を今までも行ってきた。これに加えて、チェック漏れ防止・点検記録確実化のため、MRグラスにサーモカメラを接続して熱画像を可視化する試みを始めている。MRにより、装置の部位ごとの正常温度範囲データを現物の特定箇所にひもづけて管理できる。


 現場ではサーモカメラの熱画像がリアルタイムに解析され、温度異常部位が視界に入るとアラートと共に熱画像が表示され、撮影・帳票記録される。現場作業者が解決できない事象が発生した際には、遠隔事務所をPC越しに呼び出し、熱画像などの表示込みでMRグラスのカメラ映像を見せながら会話し、後方支援を仰ぐことができる。この際、遠隔PC画面からは、映像越しに現場の実空間に線や矢印を書く・さらには手がふさがっている現場作業者の目の前に必要な図面などを表示させることができる。まさに空間を把握しているMRならではの活用例であり、サーモカメラなどIoT機器の情報をMRによって可視化している「接着剤としてのXR活用」の好例である。
 

遠隔拠点で参加も

 
 次に教育研修現場へのVR活用について説明する。VRは3次元CG製作コストがネックとなり活用が進まない傾向にあったが、最近ではCGではなく360度カメラ画像を用いたVRの実務適用が進み始めた。自身で気軽に撮影しVRコンテンツ化できるため、日常使いが可能となっている。水力発電の水路トンネルなどを止水した際に360度映像撮影しておくなど、普段入れない場所での研修が必要な現場では、大きなメリットを見出せる。また、遠隔拠点からの360度VR空間参加も可能であり、コロナ禍の後押しもあって、この1~2年で遠隔研修がかなり進んだ。

 最後に、東京電力グループでの事例を紹介する。東京電力ホールディングス経営技術戦略研究所では、業務省力化・安全性向上などを目指し、遠隔者による現場作業支援、現場における作業区画表示・図面や手順書のデジタル化、教育研修の高度化などをテーマに、早くからMRの業務適用研究をポケット・クエリーズと進めてきた。その成果のひとつとして変電訓練現場でのMRによる業務運用が始まっている。詳細は次回、適用先である東京電力パワーグリッドの平田正博氏から説明頂く。

 なお活用事例を動画として公開する。アドレスは、https://bit.ly/3LdBMON(ポケット・クエリーズのサイトが開きます)

電気新聞2022年2月21日