ペレット状の樹脂に加工した消臭成分。硫化水素などを無臭化できる

 電気自動車(EV)向けなどで開発が進む硫化物系全固体電池について、課題となっている硫化水素発生リスクの解決に、古河電気工業グループの古河産業(東京都港区、横田敦彦社長)が乗り出した。同社が販売する消臭技術を全固体電池に組み込めれば、破損で発生する硫化水素を無害化し、死傷につながる事故を防げる。この構想の実現に向け、同社は車載蓄電池やEVメーカーに広く協業を呼び掛けている。

 全固体電池は、電解質の種類によって硫化物系と酸化物系に大別される。硫化物系はイオン導電性が高く、高出力・大容量性に優れることから、主に車載向けでの開発が進んでいる。

 課題は安全性。硫化物系の電解質は、交通事故の際などに電池が破損して大気に触れると、水分と反応し有毒な硫化水素ガスを発生させる。毒性は極めて強く、場合によっては人間が即死する可能性もある。

 そこで古河産業は、協業先の日本抗菌総合研究所(奈良市、富士野彰宏代表)が開発した消臭技術に着目した。この消臭技術は食品添加物に使える安全な原料のみを用い、臭いの原因となる物質を化学的に分解して無臭化する。硫化水素などのVSC(揮発性硫黄化合物)のほか、生ごみやたばこ、接着剤といった様々な臭気に対応する。

 消臭成分は粉末や水溶液、ペレット状の樹脂などの形状に加工できるため、適用場所が幅広い。大手コンビニエンスストアのセブン―イレブンが販売するマスクにも使われており、採用先は着実に広がっている。

 古河産業はこの消臭技術を硫化物系全固体電池に組み込む場合、電解質の外装材に消臭成分を混ぜる構造などを想定する。ただ、同社合成樹脂事業部の勝田孝行氏は「車載蓄電池やEVメーカーの協力が実用化には不可欠」と指摘する。技術提案を進め、メーカーと協力しながら開発を急ぐ考えだ。

電気新聞2022年4月8日