第一線現場における喫緊の課題である「省人化」「技能継承」の解決・改善に向けて、「XR技術」の実務適用・社会実装が進んできている。連載2回目の今回は、特に適用が進んでいる業界とその事例、特に先進的な事例についてご紹介する。電力業界におけるXR技術の適用検討(次回掲載)に向けてウオーミングアップを図りたい。

 昨年2021年はXR技術(AR/VR/MR)の業務運用元年といえるのではないかと思える。今回は、各業界における業務運用、いわば日常使いの事例のうち特に先進的な取り組みについて幾つかご紹介する。
 

安全教育でVR技術が先行

 
 まず、建設・建築・製造・エネルギー業界などの現場向けで活性化してきているのが、安全教育へのVR技術の活用である。特に、リアルでは体験できない事象、落下事故などの危険体験をバーチャル上で体感するといった活用が進んでいる。大事なのはVRでの体感・体験ではなく、体験後に受講者や講師の間でディスカッションを行うことである。実体感+ディスカッション、これが学習効果を高める非常に有益な手法である。ただし、VR技術活用における課題は、コンテンツ製作コストが高いということである。3次元CGを用いてバーチャル空間を再現するため、この製作コストが格段に高く、コンテンツを量産することが事実上難しい。

JFEエンジニアリング向けのAR事例。鉄骨に配管取り付け金具が正しく溶接されているか、設計データを元にした配管CGを重ねて確認する

 次に、建設・建築・製造の現場での運用が活性化してきているのが、施工/製造状況チェック・結果記録へのAR技術の活用である。JFEエンジニアリングのような橋梁(大型構造物)の設計・施工の業界では、タブレットを用いて3次元CADデータを施工中の橋梁にARを重畳表示させ、目視による施工チェック(穴開け・締結部品・ブラケットなどの有無)を行っている。実現場での施工時に設計・施工ミスが発覚すると、工場までの部材の返送・加工・再塗装・現場への再輸送など大きなコスト損失が発生するため、工場での仮組み状態でこのARチェックを行う、という活用が始まっている。

 そして、MR技術の活用は、AR/VRに比べると新しい技術であるため、活用が一歩遅れて始まってきている状態である(とは言え、業界適用研究が始まったのが18年ごろなので、すでに丸4年経過している)。その中でも日常使いが始まっているのが遠隔支援へのMR技術の活用である。詳細は次回掲載するが、今回は半導体製造装置業界トップクラスの東京エレクトロンにおける技術的にも先進的なMRの取り組みをご紹介する。同社が製造販売する半導体製造装置の納入先は半導体を製造する顧客の工場である。これら工場は秘匿性が高く、装置のサービスエンジニアによる工場外への映像共有による遠隔支援が許可されないことが多い。このため、MRのコア技術であるSLAM処理を利用。装置を3次元スキャンし、スキャンされたメッシュデータを活用して、自社装置以外の工場背景の映像をリアルタイムでマスクし、そのマスク映像を用いて遠隔事務所と映像通話を行うという技術を開発し、業務適用している。

 

設備情報用い電力業界でも

 
 最後に、デジタルツイン・メタバースといったキーワードにつながる大気社における取り組みについてご紹介する。空調設備の設計・製造・管理業務において、見えないモノの見える化を図るという取り組みであるが、まさにXR技術は見えないモノを可視化するためにうってつけの技術である。具体的に言うと、空調設備の機械の稼働状態、例えば温度のPLCによるリアルタイム取得・空間の部位ごとの温度計測・空気の流れの解析――により情報を収集。これらをAR/MRで可視化し、今まで不可能であった目視による検討・判断が可能となった。

大気社向けのMR事例。空調の稼働状態データを現実の装置上に重ねて投影して見える化する

 また、XR技術により、装置の稼働状態、特に異常発生時の状態とデータを、実空間の場所にひもづけて管理できるため、故障発生場所・箇所への誘導・故障箇所の過去の不具合データ/対策作業結果データのレコメンド表示が可能になるなど、設備保全効率化にもつながってきている。このような現地現物情報の管理/利活用はデジタルツイン・メタバース(リアルメタバース)の世界といえ、電力業界においても非常に有用である。

 次回は、今回のXR活用事例を念頭に置き、電力業界ならではの活用事例について考察しつつ、本来の目的である「第一線現場における技能継承・省人化」へのヒントを提示したい。

 なお活用事例を動画として公開する。アドレスは、https://bit.ly/3LdBMON(ポケット・クエリーズのサイトが開きます)

電気新聞2022年2月14日