投資回収の有無軸に 依存度高く国益鑑み

 
 ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月を迎えた。この間、ロシアでのエネルギー資源開発を巡り、米英のエネルギー大手が撤退を表明した一方、天然ガスのロシア依存度が高いドイツなどは慎重だ。極東や北極海沿岸のLNGプロジェクトなどに参画する日本勢も国益の観点から権益を保持する姿勢を示す。

 日本勢が関わるプロジェクトは極東サハリンと北極海沿岸ギダン半島に存在。「サハリン2」は年間約1千万トンのLNGを日本に輸出してきたが、英石油大手シェルは撤退を表明。主に原油を輸出する「サハリン1」には日本の官民の合弁会社サハリン石油ガス開発が参画する。オペレーターである米エクソンモービルは撤退方針を示した。

 日本は「ヤマルLNG」から約17万トンのLNGを輸入(2020年実績)。23年に生産開始予定の「アークティックLNG2」には三井物産と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の合弁会社が出資する。

 LNGプロジェクトには海運会社も関わる。砕氷船から普通LNG船への積み替えを行う浮体式LNG貯蔵設備(FSU)がアジア・欧州方面各1カ所で整備中で、この事業には商船三井が出資する。
 

プラント輸出も

 
 開発資金面では国際協力銀行(JBIC)が融資を行っている。同行は16年にヤマルへの液化プラント輸出資金として上限2億ユーロ(約266億円)の融資契約を締結済み。昨年にはアークティック2の開発向けに17億1千万ユーロ(約2270億円、JBIC分)のプロジェクトファイナンスを行う契約を結んだ。

 エクソンやシェル、英BPがロシア事業からの撤退を打ち出す一方、欧州のエネ企業は慎重な姿勢をとる。露・ドイツ間を結ぶ天然ガス導管「ノルドストリーム2」がその代表例だ。同案件の建設費用の半分は欧州の5社が負担。その額は47億5千万ユーロ(約6300億円)で、各企業は既に8億ユーロ(約1060億円)程度を支払っているとみられる。

 シェルは撤退の意向を示す一方、独ユニパーやオーストリアのOMV、仏エンジーは進退を明言していない。ユニパーとエンジーは今月に入って各9億8700万ユーロ(約1300億円)の減損を計上すると発表。それでもノルド2事業の見直しには言及していない。欧州エネ企業に詳しい関係者は「投資回収が終わったかどうかが撤退の判断基準」とみる。実際にノルド2の恩恵を受ける独・オーストリアなどの企業は導管事業でのリターンを見込んで投資。導管を自国に引いていないシェルとは事情が異なる。
 

経済面は脱却も

 
 独は天然ガス需要量の55%、オーストリアは95%(ともに20年)をロシアに依存。独のショルツ首相は2月22日にノルド2の承認手続きの凍結を表明したものの、22年末の脱原子力を掲げる同国はできるだけ多くのエネ供給源を確保しておきたい事情も抱える。

 「仏トタルエナジーズも投資回収が終わっていないのだろう」(同じ関係者)。トタルは22日、ヤマルとアークティック2から当面撤退しない方針を示した。ヤマルは17年に生産を始めた「若い」案件で、アークティック2はまだ操業開始前。十分なリターンを得ていないとの見方だ。西側諸国は経済的な「脱ロシア」を掲げる一方、エネ資源の調達ではそれぞれの事情を考慮し冷静な対応を取ろうとしている。

電気新聞2022年3月25日