次世代スマートメーターは2025年の設置開始を目途に開発が進められていくが、24年までに国内の全需要家に現行のスマートメーターの設置が完了する。スマートメーターが計測するデータは料金精算に使用されるにとどまらず、DXによる社会の変革を指向するSociety5.0の様々な領域において、基盤的データとしてその活用が期待されている。ここでは、電動化が進む交通分野に結び付ける「電力と交通のセクターカップリング」によって、脱炭素な街づくりを目指す活用事例を紹介する。


 図1に示すのは、宇都宮市、および隣接する栃木県芳賀町において2020年時点で設置されている約25万台のスマートメーターのデータを基に作成した電力消費量ならびに太陽光発電からの逆潮流電力量の分布である。データは夏のある時間断面におけるそれぞれ30分間の積算有効電力量であり、グリッドデータバンク・ラボ(GDBL)が提供するサービスを活用し、250メートル角のエリアで統計化したスマートメーターデータの分析によって得たものである。
 

配電網の負担軽減しつつ脱炭素

 
 カーボンニュートラルに向けて太陽光発電の設置が拡大すれば、逆潮流の発生はさらに顕著になり、配電ネットワークの局所的な電圧上昇や容量超過などの問題が発生する。一方、脱炭素を図る運輸部門においては、自動車の電動化が進むことが想定され、これまで主にガソリンであったエネルギー源が電気に転換される。車載の蓄電池への充電は、時間かけてゆっくり行う普通充電で数キロワット、ガソリンの給油並みに10分オーダーで素早く行う急速充電では50~150キロワットにもなる。社会全体の自動車の台数を考えれば電力消費量は大きく増加し、充電が同時に行われると配電ネットワークへの負担もかなりのものとなっていく。電気を出す太陽光発電とは逆に電動車への充電は電気を吸い込むため、配電ネットワークの電圧を下げる方向に作用する。以上を踏まえると、太陽光発電と電動車充電設備を極力近接して導入し、充電の時間帯を太陽光発電からの逆潮流が発生する時間帯に合わせるようにできれば、配電ネットワークへの負担を軽減しつつ脱炭素を進めることに貢献できる。
 

公共交通網を電化して再構築

 
 現在、宇都宮市では23年4月の開業予定でライトレール路線(LRT)を建設中であり、これに合わせてバス路線などの公共交通網の再構築を計画している。そこで、筆者らの研究グループでは、宇都宮市におけるデータを活用し、スマートメーターのデータを組み合わせて、太陽光発電をはじめ地域の再生可能エネルギーを有効に使い、また配電ネットワークに極力負担をかけないように、公共交通に電動車を導入する研究を進めている。図1のような電力データの空間分布を30分ごとの時系列情報として把握し、予測を組み合わせることによって、電動車の充電ステーション設置箇所や運行・充電パターンによって、再生可能エネルギーの利用率や配電ネットワークへのインパクトを定量的に評価することができる。カーボンニュートラルを目指す中、電力データに基づき交通システムを検討し、両者の相互作用を考慮して全体の最適化を図るプロセスは、今後の街づくりの基本として重要になると考えられる。筆者らはこれを「電力と交通のセクターカップリング」と呼んでいる。街全体で脱カーボンを進めながら、住民に対し利便性の高い公共交通サービスの提供を図るとともに、災害時には避難所などで電力を提供するE―MaaS(Electricity, Environment and Mobility as a Service)の実現を目指している=図2


 スマートメーターの全国配備の完了と次世代版への進化を控え、電力データと様々なデータとの掛け合わせにより多様な社会サービス創出が加速することを期待したい。

【用語解説】
 ◆グリッドデータバンク・ラボ
 送配電事業によって得られる電力データを基に、多様化する社会課題の解決やビジネス価値の創造を目的とする有限責任事業組合。東京電力パワーグリッド、中部電力、関西電力送配電、NTTデータが出資。

(全3回)

電気新聞2022年1月31日