デジタル社会が進めば、これまでは独立して存在していたものが互いにつながり合い、単一型サービスから複合型サービスへと変化していくことだろう。そうなれば、一つの領域で得られた情報が別の領域でも利用されるようになると考えられる。あらゆるものがつながり、かつてサービスごとに存在していた境界を意識しなくなる世界がすぐそこまで来ている。P2P電力取引のその先にどんな未来が待っているのか。

 前回の本欄ではP2P電力取引の応用例について述べた。今回はさらにP2P電力取引の枠組みを超えて、どういった発展の可能性があるかについて触れられればと思う。

 

モビリティーの電化

 
 直近の世界の動きを見ても分かるように、今後モビリティーの電化はどんどんと進んでいくだろう。電気自動車(EV)はP2P電力取引を用いて空いた時間での充電を行うことができる。この際、P2P電力取引では電力の需給のマッチングを行っているわけであるが、この仕組みをモビリティーのリソースマッチングに応用することも考えられる。例えば、オンデマンドバスの乗降予約であったり、荷物のラストワンマイル輸送に用いるなどだ。人に加えて貨物を扱う貨客混載との連携ももちろん考えられる。

 そうなるとモビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS)で扱う情報と電力で扱う情報が次第に相互で利用されるようになるだろう。電気で得られる情報を、モビリティーの移動計画やロジスティクスの配送計画に応用するようなイメージだ(その逆もしかりである)。電力情報をロジスティクスに応用した事例として、スマートメーターの情報を利用して、在宅かどうかを判断し不在配達を減らす実証実験が行われている。

 電力データの応用事例は他にもある。電力のディスアグリゲーション技術を用いて、宅内でどの家電が使われているかを把握し、日常生活がいつもどおり過ごせているかを判断することで見守りサービスを提供している事例もいくつかある。

 ここで見えてくるのが、電力データは利用者の日々の生活を映し出すものとなり得るという点だ。電力データを用いて生活習慣の改善を促すようなヘルスケアサービス提供も将来可能だろう。ウエアラブルデバイスから得られる情報と電力の情報を組み合わせることで、さらに解像度の高いヘルスケアサービスの提供も考えられる。


 そして、P2P電力取引で想定されるような取引エージェントがその人に成り代わって自動で取引と決済を行うようなM2M(マシーン・ツー・マシーン)の世界が一般的になれば、その決済の仕組みを今回述べたMaaS、見守り・ヘルスケアなどに広げることも考えられる。それが実現すれば、これまで一つ一つが独立していた領域の壁がなくなり、シームレスにあらゆるサービスを行き来するような世界観が生まれるだろう=図1

 別の表現で言うのであれば次世代電力インフラ、MaaS/ロジスティクス、ヘルスケアなどの様々な都市機能が集まることでスマートシティーを形づくるためのオペレーティングシステム、「都市OS」が形成される。


 都市OSは結果的にクオリティー・オブ・ライフ(QOL)が無意識のうちに向上するようなUX(体験)を提供してくれると筆者は期待している=図2
 

データの相互運用性が鍵に

 
 今回述べた内容は一つの産業で完結する話ではない。様々な産業が水平につながり合うことで実現される。もちろんセキュリティー面など考慮しなければならない点はいくつかあるが、適切なデータのインターオペラビリティー(相互運用性)を実現することで次世代のスマートシティーが形成されることだろう。

(全4回)

電気新聞2021年12月13日