対露経済制裁で

 
 ウクライナ情勢を巡る緊迫の度合いが一気に増した。ロシアは親露派勢力が支配するウクライナ東部2地域の独立を一方的に承認したのに続き、軍事攻撃に踏み切った。岸田文雄首相は23日、親露派支配地域との輸出入禁止などを盛り込んだ対露制裁措置を発表。日本はロシア産天然ガス・原油、石炭を輸入している。現時点では日本の制裁措置にロシア産エネルギー燃料の輸入禁止は含まれていないものの、市況に大きな影響を及ぼすだけに、電力会社などは今後の動向を注視している。

 政府の制裁措置発表に関し、外務省と経済産業省・資源エネルギー庁は23日夜、「原油供給はウクライナ情勢の緊迫化によっても断絶しておらず、対露経済制裁はエネルギー需給を阻害するものではない」との見解を出した。石油、LNGともに十分な備蓄量があるとして、国内のエネルギー安定供給に直ちに大きな支障を来す懸念はないとしている。

 大手電力関係者も「(天然ガスや石炭の)物量が足りなくなる状況ではない」と指摘。エネルギー資源を巡る国際情勢に詳しい専門家は「西側はロシア産エネルギー燃料を制裁対象に含めないだろう」とみる。欧州でガス在庫が不足し、追加調達に奔走する中、ロシア産燃料の輸入禁止措置を取れば「自分の首を絞める」ことになりかねないためだ。ロシア側も報復措置としてLNG輸出禁止という手は打たないと分析。パイプライン経由での供給と異なり「牽制・報復の効果は弱い」(前出の専門家)との見方だ。

 JERAはLNGの1割未満、石炭の1割強をロシアから輸入(2020年度実績)。仮にロシア産を調達できなくなった場合、豪州などからの調達で対応する方針だ。関西電力は20年度実績で石炭の15%をロシアから調達しているが、現時点で調達に影響はないという。

 北海道電力は海外炭の大部分を豪州炭が占める。今年度は豪州炭に加えて、ロシアからも輸入。今年度の所要量については既に調達のめどが立っている。北陸電力の石炭調達に占めるロシア産は2割弱で、「供給不安が高まっている地域からの調達については配船上限を設け、計画段階でリスクを低減している」とした。中国電力は22年度にロシア産石炭の購入計画があるが、影響については不透明。契約しているロシア炭が出荷されない場合には他国からの購入を含めた対応を取る方針。四国電力は今年度、ロシアから約30万トンの石炭を調達したが、足元ではロシア炭の配船は予定していない。

 東京ガスは、原料調達に占めるロシア産天然ガスは1割強。大阪ガスもロシアからの調達は限定的で、大きな影響はないとみている。東邦ガスも、現時点で安定供給に必要な在庫水準は確保できているという。

 懸念されるのは“玉不足”ではなく、ただでさえ高止まりしている燃料価格への影響だ。実際、LNGスポット価格の上昇は顕著だ。

 九州電力はLNG所要量の大部分を原油価格連動の長期契約で調達しており「影響は限定的」としつつ、政府や売り主など関係者との連携を強化しながら今後の対応を検討していく方針。JERAは資源価格の高騰が続けば日本のエネルギー価格への影響も大きいとして、動向を注視していくとしている。

 また、東北電力は石炭とLNGをそれぞれ1割程度ロシアから輸入しているが、樋口康二郎社長は24日の定例会見で「今後についてはロシア以外からの調達を増やすとか、スポットで早めに調達するなどの対応を考えている」と述べた。

電気新聞2022年2月25日