ピア・ツー・ピア(P2P)と聞くと、ファイル共有システムやブロックチェーンを思い浮かべる人も多いかもしれない。メッシュネットワークを張り巡らせ、相互に情報をやりとりする概念だ。その概念を電力に取り入れたP2P電力取引に注目が集まっている。P2P電力取引はこれまでの中央的集権的な電力インフラとは大きく異なる。UberやAirbnbに代表されるシェアリングエコノミー(余ったリソースを共有する新しい経済の動き)を電力で実現する仕組みだ。果たしてどのようなものなのか、その具体的な内容にフォーカスを当てる。

 前回は分散協調メカニズムを用いた電力のやりとりについて述べた。今回はその一例であるP2P電力取引を紹介する。P2P電力取引とは、太陽光発電などの分散電源から発生した余剰電力をフレキシブルに近隣間で融通する仕組みである。




 太陽光発電を設置した需要家を例に説明しよう。電力融通の有無で余剰電力がどう変化するかを図1に示す。(1)「融通なし」ケースでは自家消費以外は余剰電力になり、系統にそのまま逆潮せざるを得ない。(2)「融通あり/蓄電なし」ケースでは、昼間の電力取引により余剰電力を減らすことができる。(3)「融通あり/蓄電あり」ケースでは、さらに蓄電池に充電して余剰電力を減らす。充電した電力は自家消費するか、夜に市場に売ってもよい。
 

取引相手を意識することなく

 
 この電力融通のためのマッチングと取引記録を自動的に行うのがP2P電力取引だ。マッチングはネットワーク上で行われ(情報層)、取引が約定して売り手から買い手に電気が移動しているように扱う(物理層)。実際の電力のやりとりは電力系統を介すが、取引相手を意識することはない=図2。取引手法には事前型、事後型などの分類がある。事前型は、取引参加者が取引量を事前に決定し、売り手と買い手のマッチングを済ませておく。事後型は、実際の順潮量・逆潮量から事後的にマッチングを行う。

 ここでは事前型の市場メカニズムによるP2P電力取引について深掘りする(ほかにも約定条件を高度に追究するゲーム理論や分散最適化を用いてマッチングする取引もある)。



 事前型のP2P電力取引では、エージェントと呼ばれるソフトウエアが、参加者の嗜好(しこう)性を反映して量と価格を決定して入札することで自動的に電力を取引する。嗜好性の例としては「再エネをより多く」や「とにかく安く」「特定地域で発電された電力を使いたい」などが挙げられる。これまでの電力システムではできなかった、購入する電力のフレキシブルな選択、参加者の個性・特性を反映できる点が注目されている。

 なお入札量の決定には機械学習を用いた需要・供給予測が重要となる。この点においての研究領域も大変活発で、日々新しい手法が提案されている。
 

個別最適目指し結果的に全体最適に

 
 もう一つの注目点が仮想通貨の基幹技術、ブロックチェーン(BC)だ。BC上ではスマートコントラクトと呼ばれるプログラムが実行できる。ここに電力取引に関するルールを記載すれば、「分散自律組織(DAO)」が構築され多段階の取引業務の自動化が可能であり、電力取引のプロセス全体をシンプルにできると期待されている。

 ここで一つ触れておきたいのは、意思決定の主体はP2P電力取引の参加者であり、プラットフォーム側ではない点だ。参加者は太陽光発電システムや蓄電池など、保有ハードウエアの容量を提供できるときのみ提供し、プラットフォーム側は経済合理性を担保してマッチングを行う。需給の最適化という観点では中央制御型のシステムと比べてパフォーマンス的には劣るが、個別最適を目指し動きつつ、結果的には全体的にプラスに働く効果が期待される。

 次回はP2P電力取引の応用例について述べる。

電気新聞2021年11月29日