今の我々は中央集権的に管理された電力インフラにより安定して電力を利用することができている。それに対し、脱炭素化に向けた再生可能エネルギーの主力電源化の動きを背景に、エネルギーの分散化の動きが着々と広がっている。分散電源の普及が進めばこれまでとは異なるインフラの運用が必要となってくる。あらゆるモノが互いにつながり合ってやりとりできるようになったこの時代に、我々はどのような次世代の電力インフラを目の当たりにするのだろうか。
 

再エネ阻む「ダックカーブ」

 
 脱炭素化の流れが、かつてない活気を得ている。二酸化炭素(CO2)排出量のうち約4割は電力に関連するものであり、電力の脱炭素化に与える影響は少なくない。また、運輸においても電化が進めばさらに電力の需要は高まり、脱炭素化における役割が重くなるだろう。これらのことから再エネの主力電源化に向けた動きは大変重要になる。実際ここ数年、高水準で再エネへの投資が行われている。今後あらゆる再エネがさらに普及していくことだろう。

 しかしながら、再エネは天候状況に大きく依存する。太陽光発電を例に挙げると、雨天時の発電量は晴天時と比べて10分の1ほどに低下する。仮に予期せぬ急な天候の変化が発生した場合、需給バランスにも影響を及ぼす可能性がある。ご存じの通り、電力は需給のバランスが崩れると周波数や電圧の乱れを引き起こし、品質が下がってしまう。また、太陽光発電により昼の系統需要が抑制され、太陽光がなくなった夜に急激に需要が増えるように需給カーブが変化する「ダックカーブ」問題も再エネ普及の課題である。

 再エネが生み出す発電の変動に、これまでの電力インフラで対応するのは容易ではない。その変動を吸収するために重要な役割を担うのが蓄電池である。蓄電池の導入量は年々増えており、導入コストは減少傾向をみせてはいるものの依然として高く、系統運用者が再エネを受け入れるための容量を全て確保するのは現実的ではない。
 

低コストで容量向上の可能性

 
 もし、既に別の目的で設置されている蓄電池を、容量が余っているときだけ別の用途に利用することができればどうか?
 そして、それらを集約して一つの大きな蓄電池のように扱うことができればどうか?
これらが実現できれば、信頼性/応答性は専用の蓄電池よりは低下するが、低コストで蓄電容量を高められる可能性がある。ここで用いる蓄電池は定置型のものだけではない。電気自動車(EV)も含まれる。EVは動く蓄電池の側面を持っているというのは言うまでもないだろう。昨今のEVへの注目度の高さはこれまでにないほどで、今後飛躍的な普及拡大が期待できそうだ。

 統計的に見ると自動車は年間の90%が駐車状態にあるといわれている。もし、この駐車状態かつチャージャー接続状態のEVを蓄電池として扱うことができれば、高容量の蓄電池を確保できたのと同じである。

 このように既にあるアセットを適切に利用して、再エネを普及させて電力を安価に扱うため、「分散協調メカニズム」は重要な概念となる。ここでの分散協調メカニズムとは、様々な需要特性を持つコンシューマーや、発電設備を持つプロシューマー(プロデューサーとコンシューマーの2つの特性を持つもの)がお互い電力需給を補い合うことを意味する。見方を変えれば、エネルギーのシェアリングエコノミーを実現するような世界観である。

 分散協調メカニズムを利用した電力のやりとりとして注目を浴びているのがP2P(ピア・ツー・ピア)電力取引である。次回以降はP2P電力取引の具体的な内容について紹介をしていく。

電気新聞2021年11月22日