近年、二酸化炭素(CO2)排出量削減のため普及が促進されている電気自動車(EV)は、デマンドレスポンス(DR)など再生可能エネルギー導入時の系統安定化対策のリソースとしての活用も期待されている。ここでは、電力中央研究所が開発したEV交通シミュレーター(EV―OLYENTOR)を用いた検討結果を通じて、EVのDRリソースとしての活用可能性と課題を説明する。
 

調整力の有望なリソース

 
 再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、系統全体での余剰電力の発生や調整力不足などの課題が顕在化している。このため、需給調整力を低コストに確保する狙いで、需給調整市場が開設され、需要家側の資源を活用したDRによる調整力の入札も可能になっている。この中で、今後急速に普及拡大が見込まれるEVはDRの有望なリソースとして期待されている。

 ただし、EVをDRに活用する場合、EVは移動体であるため、その特性を考慮してDRへの活用可能量を明らかにする必要がある。そこで電力中央研究所では、EVの移動体としての特性を模擬可能なEV―OLYENTORを開発した。EV―OLYENTORでは、実際の道路データを用いて個々のEVがどのような移動や充電行動を行うかを模擬し、大量のEVの時間毎の地理的な存在分布や充電需要を推定可能である。ここでは、EV―OLYENTORを用いて出退勤や買い物などEVの交通行動をアンケートなどに基づき模擬した上で、アグリゲーターによる充放電制御が加わった場合のDRとしての活用可能量を試算した結果を紹介する。なお、アグリゲーターは各EVが走行中に電池切れが発生しないように充放電制御を行うこととした。


 図1に、大阪府を対象として、EVの下げDRとしての活用可能量を試算した結果を示す。EVは駐車場所に到着したらすぐ充電器に接続し充電するとした。また、EVが普及率16%(275万台)となった将来の状態を模擬した。普及率16%は長期エネルギー需給見通し(2015年7月)で想定している30年目標相当である。また、三次調整力(2)(発動継続時間:3時間)に入札可能なDR活用可能量を推定している。図から、充電抑制のみの場合は数万キロワット程度であるのに対し、V2Gによる放電も含めると9~15時台で自宅と勤務地においてそれぞれ50万キロワット程度と顕著に大きくなることが分かる。DRリソースとしての活用には、自宅と勤務地へのV2G(またはV2H)対応充電器の普及が重要である。


 図2に、DR発動時間帯を9~12時とした場合の、EVの充電電力パターンの変化を示す。同図からは、9~12時の時間帯に充電電力を抑制できているが、DR終了直後に充電電力の急峻な増加がみられる。

 これは、DR無しの場合の充電開始時刻が9~12時に分散していたのが、DRありの場合はDR発動時間帯終了の12時に集中したためである。現状の需給調整市場ではDR終了直後の需要の増加については規制がないため、DRリソースとしてEVが普及拡大した場合には、DR終了後の充電電力パターンについて平準化の方策が必要と考えられる。
 

統合制御するマネジメント重要

 
 EVは再エネ大量導入時の調整力リソースとしての活用が十分期待できるが、DR終了直後の一斉充電の抑制も含め、EV充電電力を統合制御するエネルギーマネジメントが重要となる。さらに今回検討しなかったが、EV普及に伴う配電系統の電力品質(電圧変動や変圧器の過負荷発生など)への影響評価や、影響を回避するための方策も必要となる。また、本稿では下げDRとしての活用可能量を試算したが、余剰電力を活用する上げDRとしても活用可能であり、次回で説明する。

電気新聞2021年10月25日