2050年カーボンニュートラルに向けて、そのとき責任を担う世代となる20代から30代のデジタルネイティブ世代に未来と地球について自分ゴトとして考える人たちが増えている。東大イノベーション・エコシステムからも新しい世代の挑戦が始まっている。国境・業界・世代を越えるスタートアップの挑戦、グローバルのベストプラクティス、ローカルの特色をうまく社会実装を通じて組み合わせることができれば、日本のカーボンニュートラル実現も加速できるのではないだろうか。

 2018年8月、当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんはスウェーデン国会前で一人で座り込みを始めた。気候変動のための学校のストライキだ。共感した若者たちの運動は草の根的に広がり、19年9月の国連気候変動サミットに合わせたグローバル気候マーチに全世界で760万人以上が参加した。50年カーボンニュートラルに向けて、そのとき責任を担う世代となる20代から30代に、未来と地球について自分ゴトとして考える人たちが増えている。この世代のもう一つの特徴は、デジタルネイティブ世代でもあるということだ。東大イノベーション・エコシステムからも、こうした新しい世代の挑戦が始まっている。
 

高い熱量の若者たち

 
 Yanekara社は、東大工学部を中心に当時の大学4年生たちが20年に設立した。共同創業者たちは高校生の頃からそれぞれ世界レベルで活躍し、大学進学後にハードウエア技術を探究する者、AI(人工知能)クラウド技術を探究する者、高校卒業後ドイツの大学に進学して課題先進地域に身を置く者が結集した。電気自動車(EV)を動く蓄電池として捉え、EV充電器を起点に分散型エネルギー資源のデジタルプラットフォームを構築する構想に挑み、素早い行動を通じて様々な世代・業界を巻き込み東大柏キャンパスを拠点に教員・学生が高い熱量で研究開発・事業開発に取り組んでいる。
 

 ヒラソル・エナジー社は、東大情報理工学系研究科の落合秀也准教授の研究成果であるIoT(モノのインターネット)技術を太陽光発電分野で事業化するために17年に設立された。20代から30代の社員は東大などで博士号か修士号を取得した技術者で、ソニー、住友電工、日立などの日本を代表する企業で経験を積んだエンジニアや、中国やベトナムで大学教員を務めるレベルの元留学生が結集している。適切なメンテナンスを行いながら太陽光発電を百年続く持続可能な資産とするため、AI/IoT技術を駆使したソーラーデジタルプラットフォームを構築し、太陽光発電の不具合をパネル単位で早期発見したり、リパワリングを行ったりしている=図1
 

脱炭素へ世界中から期待

 
 これまで東大発スタートアップの国境を越える挑戦、業界を越える挑戦、世代を越える挑戦を紹介してきた。カーボンニュートラルに向けて、既存事業の制約を受けず、不確実性の高い領域でも経営資源を集中できるスタートアップの可能性に世界中から期待が寄せられている。世界各地のスタートアップの挑戦から、ベストプラクティスをいち早く発見し、日本での社会実装を競う動きがこれから加速していくだろう。
 

 そのためには、課題先進地域、業界の飛び地、世代間ギャップを越えたスタートアップの挑戦の場、大企業がスタートアップと連携する社会実装の場が重要になる=図2。注目しているのは北海道だ。第2回で紹介したエクセルギー社が参入している、欧州の課題先進地域であるアイルランド島は、北海道とよく似ている。面積も人口規模もほぼ同じ。風力発電などの再エネ適地でありながら、島で他の地域との連系線が弱いのも同じだ。そして、冷涼な気候で冷却コストの低減が見込まれるデータセンターの適地でもある。さらに、北海道には欧州とアジアをつなぐ北極海ケーブル構想もあり、ダブリン周辺に欧州向けデータセンターが集中する様に、近い将来、札幌周辺に本州向けデータセンターが集中する可能性もある。

 北海道は一例にすぎない。国境・業界・世代を越えるスタートアップの挑戦、グローバルのベストプラクティス、ローカルの特色をうまく社会実装を通じて組み合わせることができれば、日本のカーボンニュートラル実現も加速できるのではないだろうか。

(全4回)

電気新聞2021年10月11日