NExT-e Solutions社は、エネルギー循環型社会の実現を目指し、デジタル制御技術・半導体技術を活用して、Eモビリティーで利用した蓄電池を定置用途で安全・安心に再利用することを可能にするスタートアップだ。2つの業界が連携するとき、業界の既存事業から飛び地となる不確実性の高い領域が必ず存在する。そうした領域こそ、しがらみのないスタートアップに向いている。既存事業がなく、不確実性が高い領域でもリスクを取って集中できるスタートアップの真骨頂だ。
大学「着」スタートアップ
大学「着」スタートアップと東大でひそかに呼ばれるカテゴリーがある。大学発スタートアップと言えば、研究の成果たる知的財産を活用するスタートアップ、教育の成果たる学生・卒業生が起業するスタートアップをイメージすることが多い。大学着スタートアップは、特定の課題を解決するために共同研究などを通じて大学にたどり「着」いた研究開発型スタートアップだ。
NExT―e Solutions社は、エネルギー循環型社会の実現を目指し、デジタル制御技術・半導体技術を活用して、Eモビリティーで利用した蓄電池を定置用途で安全・安心に再利用することを可能にするスタートアップだ=図。これまで東大、東京農工大学、大分大学、崇城大学(旧熊本工業大学)などと共同研究を積極的に進め、独自技術を磨いてきた。異なる電池メーカーのリチウムイオン電池の混載だけでなく、リチウムイオン電池とニッケル水素電池などの異なる種類の電池の混載、新品電池と再利用電池の混載を可能にする独自技術が強みだ。
最初の顧客は、国境を越えた中国の新興EVメーカーだった。中国の新エネルギー車ランキングで一時は首位となるも、競争の激化で淘汰(とうた)された。転機となったのはさらに国境を越えたドイツだ。当時、電動フォークリフト世界一の企業が、鉛電池からリチウムイオン電池への変更を検討していた。コストダウンのために中国製リチウムイオン電池を検討するも、当時は火災事故が絶えない状況だった。そこで、中国製リチウムイオン電池を安全に扱い、IoT(モノのインターネット)にも対応するNExT―eS社の製品が選ばれた。この実績が評価され、台湾でも台湾最大手のEVバスメーカーに選ばれた。
中国では、異なるEVメーカーで利用された異なる電池メーカーのリチウムイオン電池を混載させて、EV充電ステーションのバックアップに再利用した。台湾では、EVバスで利用された蓄電池を、将来の洋上風力の調整用途を見込み定置用途で再利用した。こうして、NExT―eS社の独自のデジタル制御技術を活用して、モビリティー業界で利用した蓄電池をエネルギー業界で再利用する動きが海外から始まった。
2つの業界で認められる仕様
そして、日本でもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が触媒となり、トヨタ自動車九州の工場内のフォークリフトで利用された蓄電池を、九州電力が出力抑制対策でメガワット級で再利用するプロジェクトが始まった=写真。これを契機に5つの電力会社と次々に資本業務提携を行い、東京電力パワーグリッド社を軸に日本の電力会社の厳しい目線で安全性を確認し、国内での商業化が実現した。同時に、トヨタグループからも日本の厳しいモノづくりの目線で鍛えられ、モビリティー業界とエネルギー業界の2つの業界で認められる仕様・規格が完成した。物流系フォークリフトから始まったモビリティー搭載も、EVバス、建設機械、農業機械と広がりを見せている。エネルギー用途も、避難所対応や工場などのBCP(事業継続計画)対応から始まり、2025年~30年に揚水発電所の補完を目指して挑戦を続けている。
2つの業界が垣根を越えて連携するとき、それぞれの業界の既存事業から離れた、飛び地のような不確実性の高い領域が必ず存在する。しがらみのないスタートアップに向いているのがそうした領域だ。既存の事業がなく、不確実性が高い領域であってもリスクを取って挑戦することこそスタートアップの真骨頂だ。
電気新聞2021年10月4日