EVの増加は電力システムに大きな課題を与える可能性があると考えられる。英国では二輪車・四輪車の電動化に伴い、2050年に電力需要が930億~1000億キロワット時の増加予測が出ている。また、最大需要電力の増加も課題となり、対策を講じない場合には、現在の1.5倍の電源設備容量が必要になると見られている。今後、スマートチャージの定着化が必要になるが、サイバーセキュリティー対策の課題も指摘されている。今回はEV導入拡大に伴う電力ネットワークの課題について説明する。
 

配電設備容量が不足する可能性も


 
 EVは動く大型蓄電池の側面も有しているため、再エネ余剰電力の有効活用を期待されており、国内でも多くのEV制御実証が行われているが、その具体的な費用便益分析まで行われているケースは少なく、多くが技術実証である。EVが大量普及し、スマートチャージやV2Gが行われない場合に発生する電力業界側の課題は、主に(1)供給力不足、(2)配電設備容量不足に直面する可能性が挙げられる。後者については、日本は強固な配電設備を有するため課題に直面する可能性は低いといった意見もあるが、一般送配電事業者各社は、スマートメーターデータを活用した設備容量の最適化を進めており、本格的にEV導入が進んだ場合には、配電設備容量の不足に直面する可能性があると考えられる。

 さて、EV充電制御に伴う費用便益分析は、やはり英国の事例が豊富である。13~15年にOFGEMが実施した実証事業「マイ・エレクトリック・アベニュー」において、EVの本格普及が進むと、32%の配電系統で設備増強が必要になるが、スマートチャージやV2Gの活用によって約22億ポンドの投資を回避できることが判明している。


 また、昨年も本コーナーでご紹介させて頂いたが、ナショナルグリッドESOの将来エネルギーシナリオ(FES)では、EV増加に伴う最大需要電力の変化が示されている。FESでは4つの複線シナリオが示されているが、スマートチャージを実施しないと、50年の最大需要電力が1853万~2578万キロワット増加する見通しとなっている。15~20年の英国の最大需要電力は平均5400万キロワットであるため、最大需要電力の約半分に相当する追加供給力が必要になる。一方で、スマートチャージを実施する場合には、最大691万~1098万キロワットに抑えられることになり、実施しない場合の約半分に抑えられる計算となる。なお、FESではEVユーザーにおけるスマートチャージ実施率とV2G実施率の見通しが示されている。スマートチャージ実施率は50年に54~83%と見込まれているものの、V2G実施率は5~45%と見込まれており、V2Gの定着化は大変難しいと見られている。

 

サイバーセキュリティーが課題に


 
 さて、スマートチャージやV2Gを実施する場合にはサイバーセキュリティー対策も課題になる。8月上旬、英国運輸省が承認した2機種のスマートチャージャーにおいてサイバーセキュリティー上の重大な欠陥が報告された。ハッカーによる充電制御権乗っ取りが可能になるといったものであった。メーカーは直ちに対策を施したファームウエアを公開し、ユーザーにアップデートを促した。なお、昨年米国のサウスウエスト・リサーチ・インスティテュートも実証実験でEV充電システムのハッキングと充電妨害に成功しており、今後スマートチャージにおけるサイバーセキュリティー対策が政策課題になると考えられる。

 英国では2016年に諜報機関の政府通信本部(GCHQ)傘下に国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)が設立され、NCSCと関係官庁、民間企業が協力して対応に当たっている。今後、日本でもEV大量導入に当たって、スマートチャージの必要性が高まると考えられるが、その過程でサイバーセキュリティー対策の重要性についても議論になるだろう。

電気新聞2021年9月6日

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