原油や天然ガス、LNG(液化天然ガス)、石炭といった燃料価格が、欧州、アジアなどで高止まりしている。欧州では一時、卸電力価格も大きく上昇し、エネルギー危機への懸念が高まった。日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事・首席研究員は、日本の取り組みとして「脱炭素の推進と同時に、エネルギー安定供給の確保も重要。安定供給を通じ、経済や産業を守っていく政策的議論が必要だ」と訴える。

 WTI(米国原油先物市場)は10月に1バレル=80ドルを突破し、約7年ぶりの高値を付けた。新型コロナウイルス感染拡大からの経済回復で需要が増加する中、産油国による協調減産の継続で需給が引き締まり、足元でも高値で推移する。

◇LNG、米が鍵

 北東アジアのLNGスポット価格水準も9月末時点で、8月末から2倍になり、前年同月比では約6.5倍を記録。2021年のLNG輸入は中国が牽引しており、中国、韓国、南米、日本で増加し、欧州は大幅減になる見込み。輸出は米国とエジプトが大幅増で、豪州とカタールは横ばいとみられる。

 エネ研の橋本裕研究主幹は「今後のLNG供給増加の鍵を握るのは、来年には世界最大のLNG供給国になる米国」と指摘。今冬以降のLNG価格の動向については「今の状況から予測すると、北京冬季五輪も需要の下支え要因になり、来年初めから秋口にかけてはやや堅調な状況が続くのでは」と予想する。

 石炭価格も高騰しており、一般炭(豪州スポット価格)は10月中旬に1トン=250ドルを突破し、20年8月の安値から約5倍に達した。中国の旺盛な需要と石炭不足による中国国内炭価格の急騰に、国際価格が連動している。

 世界で同時多発的に発生しているエネルギー・燃料価格の高騰に関し、小山氏は要因として脱炭素化への取り組みなどに加え「市場効率の追求による供給余力の減少」を挙げる。各事業者が供給力の余剰保有を避け、合理化とコスト削減を進めた結果、「多くの市場からバッファーが減り、余力不足が価格上昇をもたらしている」と分析する。

◇原油は需要超過も

 原油やLNGへの新規投資が停滞した場合の影響に関し、小山氏は原油について「24年には需要超過が発生する恐れがある」と分析。LNGに関しては「需給バランスの不透明感を高め、国際天然ガス市場をさらに不安定化させる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 一方、欧州では天然ガス価格の高騰や風力の出力減少を受け、卸電力価格が急騰。英国では小売料金に上限が課されており、調達費用の増加を十分に転嫁できずに倒産・撤退する小売事業者が、8月以降で10社以上に上っている。

 風力の出力減少に対し、ドイツはガス火力の低出力を維持したまま、石炭火力の出力増で対応。イタリアやスペインは石炭火力の依存度が低いため、電力需要の変動にはガス火力や電力輸入で対応しており、卸電力価格はガス価格と連動する。この結果、両国はドイツよりも卸電力価格が高水準になった。卸電力価格の高騰は、原子力や水力が豊富なフランスや北欧を除き、石炭火力の少ない国で激しくなっている。

 エネ研の小笠原潤一・電力・新エネルギーユニット担任補佐・研究理事は、「今回の卸電力価格高騰の特徴は、ほぼ勝者がいないこと」と強調。その上で、「以前の高騰時は、原子力や石炭火力を保有している事業者が高収益を上げられたが、電源構成の転換が進んだ結果、そういう事業者が大きく減った」と解説する。

電気新聞2021年11月9日