EV普及拡大に当たっては、高額な車両コストやバッテリー劣化に対する消費者の懸念といった課題が指摘されることが多く、またバッテリー劣化の課題は、適正な中古車市場の形成を阻む要因となっている。これらの課題を解決するためにはバッテリー劣化状況の把握に必要なデータ連携基盤の必要性が高まると考えられ、この機能は電力業界への応用にも活用できると考えられる。今回は、データ連携基盤の重要性について説明したい。
EVの普及拡大に当たっては多くの障害を乗り越える必要があり、その課題については本連載第1回において整理した。
適正な中古車市場の形成に向けて
さて、消費者のEV購入意欲の障害になっているのは、高額な車両導入費用である。大容量のバッテリーが必要なEVは、同クラスのガソリン車に対して割高である。また、ガソリン車と比べて、中古車市場がいまだ十分に形成されていないことから、適正な下取り価格が設定できず、リース販売においても車両価格が割高に設定されるケースが多い。
EVの中古車市場が形成されていない主要因は、バッテリーの劣化による走行性能の変化が把握できない点にある。
バッテリーの劣化により航続可能距離が減少すれば、当然車両の買取価格にも影響するが、バッテリーの劣化状況は買い手では確認できず、結果として適正な下取り価格が設定できずに中古残価の低下を招いている。
このように、EVの安心運用や適正な中古車市場の形成には、バッテリーの劣化状況をはじめ、充電状況、電力消費量などEV情報の「見える化」が必要不可欠である。
また、EVは「動く大容量蓄電池」としての側面もあるため、EVが大量に普及すると第1回、第2回で述べたように電力系統への影響も大きい。電力業界におけるEVの活用、例えばピークカットやVPP、その他スマートチャージのようなサービスに活用する場合、EVのバッテリー残量や航続距離が把握できないと、電気事業者は利用可能な電力量を判断することができない。EV普及においても、EVの電力活用においても、EVデータを集約して外部システムに情報提供する、データ連携基盤が必要になると考えられる。データ連携基盤の有効性を高めるためには、単一メーカーのEVに限定せず、多くのメーカーのEVを中立的に扱うマルチブランド管理機能が重要である。
なお、データ連携基盤の考え方はEVに限ったものではなく、蓄電池・ヒートポンプ給湯器・自家発電設備といった、VPPに活用できる様々なリソース管理にも応用できるものであると考えられ、リソース管理の最適化につながる可能性があると考えられる。
機器の普及、利便性が大前提
現在、VPPは電力市場における活用への期待を背景に、電力業界が率先して進めているものの、消費者が保有する機器を活用することから、大前提として、第一にリソースとなり得る機器の普及、第二にユーザーの利便性を念頭に置く必要がある。
機器の普及やユーザーの利便性を無視したVPPは、その実効性を担保することが難しいと考えられる。
電力市場は、電力需給バランスを反映した適切な価格シグナルを送ることが肝要であると考えられ、小売電気事業者やVPPアグリゲーターは、データ連携基盤を活用し、ユーザーの利便性やリソースの機器特性を考慮したリソース運用計画を立案していく姿が予想される。
【用語解説】
◆データ連携基盤
データ駆動型スマートシティーでは、車両・電力・物流・行政など、各分野のデータを、データ連携基盤に集約し、データ連携基盤同士の連携を図ることによって新たなサービスや価値を創出する「都市OS」の構築が必要になる。
電力分野ではスマートメーターや地域ごとの再生可能エネルギーの発電状況などを集約し、EVデータ連携基盤とのデータ連携を行うことによって、ユーザーの利便性を考慮したVPP活用やスマートチャージサービスの開発が容易になる効果が期待できる。
電気新聞2021年8月30日