投資家は企業を財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンス(企業統治)などの「長期的な企業価値の最大化に寄与しているか」を評価するようになってきた。TCFDなど環境リスクの投資評価が確立したことにより、企業間取引においてCO2(二酸化炭素)フリーを条件として提示する企業も出現している。CO2削減46%を目標に掲げた2030年までの9年間に求められることはイノベーションよりも実現可能性の高い対策である。技術的に確立されたヒートポンプの導入など電化の社会実装に向けた取り組みが不可欠である。

 企業の気候変動リスクを評価するため、気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD)が発足した。これまで企業活動において、温暖化対策は、企業の社会的責任(CSR)活動の一環に位置付けられてきた。環境対策は、利益を生むものではなくコストである、ということが一つの理由である。しかし、取引条件にCO2フリーが付されるということは、ビジネスとして発注する製品の仕様に織り込まれることであり、売り上げに直接影響を及ぼすということでもある。これからは、CO2削減に向けた取り組みを各方面のステークホルダー(利害関係者)に対して開示していくことが求められる。
 

電化など既存技術で確実に脱炭素

 
 20年10月に菅義偉首相が表明したカーボンニュートラル宣言を受け、12月から国・地方脱炭素実現会議が開催された。21年6月に取りまとめた「地域脱炭素ロードマップ」では30年までに100カ所の脱炭素先行地域をつくることとした。筆者も第1回ヒアリングで小泉進次郎環境相に実装の必要性をプレゼンさせて頂いたが、電化を中心に確実に導入できる既存技術の普及に努めることが現実的であると感じている。

 発電で消費する燃料を削減することは重要な取り組みであるが最終エネルギー消費に占める電力需要の割合は30%にも満たない。残りの70%強は需要場所で化石燃料を直接燃焼している需要である。この燃焼需要の削減なくして政府の目標達成は困難である。しかし、課題は化石燃料を代替できる非化石エネルギーの燃料がほぼないことである。

 したがって、実現可能な対策としては、電化率を向上させることである。燃焼需要を電化することは機器システムの入れ替えが必要で、投資が伴う。対策の一つとして、集中型設備を残しつつ、個別分散型の生産設備を徐々に導入する方法がある。電化システムは小型分散型も多く、計画的な投資も可能であり、蒸気のような取り回しが難しいエネルギーインフラより柔軟性が高い。
 

電気を水素転換し地産地消へ

 
 それでも大量の熱需要が必要で蒸気インフラを撤去することが困難なケースも残る。この場合、電気からガス体エネルギーである「水素」を製造するP2G(Power to Gas)技術に期待が集まる。従来の液化石油ガス(LPG)や灯油から水素に燃料転換することでCO2を削減できる。間接電化である。特に地方の工場において化石燃料代替として水素を使うことはエネルギーの地産地消になる。また、ビルや住宅では高温熱需要が無いことから工場より電化への対策は一層、現実的である。

 ゼロカーボンシティ宣言をしている自治体は400を超える(21年6月現在)。電化と再エネ発電・再エネ利用技術は実用化されており、これから必要なことは、各地域において実装に向けて手を打つことである。

【用語解説】
 ◆エネルギーの地産地消 2019年12月の基本政策分科会「再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会中間とりまとめ」で、地域と共生した再エネ発電事業として地域活用電源がうたわれた。このような地域の電源を活用し地域の需要を賄うことをエネルギーの地産地消という。
 地方ではガソリンスタンドが減少しているなど、CO2排出問題だけではなく生活面で化石燃料の確保が課題となるケースが増えている。そのような地域では既存の電気設備への電力供給に限らず、化石燃料を代替する電気自動車やエアコンなどのエネルギー源としての普及が期待される。

電気新聞2021年7月26日