2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向け、エネルギーシステムでは大きな変革(EX)が起ころうとしている。主力電源が、現在の大規模集中火力電源から小規模分散型の再生可能エネルギー(再エネ)電源へ変わり、また、それらの再エネ電源の所有者が需要家になるケースも増えるであろう。さらには、再エネ電源から水素といった非化石燃料を製造するといった変化も起こるであろう。このEX後の電力システムは、どのような世界になり、そこにはどのような課題があるのであろうか。
 

再エネ比50~60%という高い目標

 
 2020年12月に発表された政府のグリーン成長戦略では、電源構成における再エネ比率を50~60%にすることが目標に掲げられている。このときの電力需要は、電化が進むことで現状よりも多い1.3兆~1.5兆キロワット時と想定されていることから、必要となる再エネ発電電力量は6500億~9千億キロワット時となる。

 太陽光発電(PV)が現状の4倍程度、2.4億キロワット導入されたと仮定すると、日本におけるPVの設備利用率を14%とすれば、年間の発電電力量は3千億キロワット時程度となる。また、洋上風力発電は、2040年で0.3億~0.45億キロワットが導入目標となっており、設備利用率を35%程度と仮定すると、1200億キロワット時前後の年間発電電力量となる。PVと洋上風力を合計すると4200億キロワット時であり、再エネ比率50~60%の達成には、ほど遠い数値であることが分かる。

再エネ比率の目標達成に向け、洋上風力の着実な開発が重要となる(写真は銚子沖ウィンドファームプロジェクト)

 そのため、PVを農地なども活用し導入を進めるソーラーシェアリングや、洋上ウィンドファームの着実な開発と、より水深の深い海域での洋上風力発電を可能とする浮体式洋上風力発電の技術開発が重要となるであろう。
 

最大需要電力上回る再エネ設備量

 
 技術開発などにより十分な再エネ発電電力量を確保できたとしても、需給運用上の様々な課題が発生すると想定される。中でも大きなものは需給バランスの問題である。電力は、常に需要と供給をバランスさせる必要があることから、発電が消費を上回る場合は、揚水発電所や蓄電池などで電力を貯め、不足する場合は、それらから電力を供給する必要がある。将来の電力需要は前述の通り今より増加し、最大電力は2.2億キロワット程度になると考えられるが、先の試算において、PVが2.4億キロワット、洋上風力が0.45億キロワットと再エネ設備量が電力需要の最大電力を既に超過していることから分かる通り、再エネ比率50%を達成するには、最大電力需要を大きく上回る再エネ設備量が必要となる。

 しかも、PVは晴天時でも日中のみの発電であり、雨天時、夜間は発電できないことから、需給バランス維持のためには現存の揚水発電では全く足りず、相当量の蓄電池の導入が必要となる。したがって、需要家所有の再エネと電気自動車を含む需要家所有の蓄電池を統合制御するアグリゲーション技術が重要となる。

 また、比較的設備利用率の高い洋上風力でさえ、発電出力が低くなる期間が数週間継続する可能性があることから、火力や原子力発電のような、貯蔵可能な燃料による安定した発電が可能な電源も必要となる。この火力発電の燃料はもちろんCNである必要があり、再エネ由来の水素・アンモニアとするか、化石燃料+CCS(二酸化炭素回収・貯留)とする必要がある。水素の価格がグリーン成長戦略で示された目標値を実現できるようであれば、水素あるいはアンモニアが主力の燃料源となる可能性がある。


 このように電力システムのCN化に向け、再エネが大量に導入されるだけではなく、需要家所有の再エネや蓄電池の統合制御が行われたり、火力発電の調整力としての役割の重要性が高まるとともに、その燃料のCN化、といったEXが起こるものと想定される。

電気新聞2021年7月19日