モックアップ試験では手順通り組み立てられることを確認した

 巨大化するのはいいが、本当に組み立てられるのか――。

 「促進区域」の指定など国内で洋上風力発電設備の建設機運が高まる中、関係者の間でこうした懸念が生まれている。洋上風力の組み立てに必要な超大型クレーンは国内に数台のみ。現状では将来の建設需要に対処できない可能性もある。風車タワーなどの大型設備を搬出できる大規模な港湾も少なく、対応するための膨大な港湾整備費も悩みの種となっている。

 この課題に太平電業は挑んだ。同社のジャッキアップシステムを応用し、超大型クレーンを使わずに洋上風力を組み立てる工法を開発。港湾の拡張や地盤改良も不要で、建設費の削減も見込める。日本の洋上風力建設における「泣きどころ」を克服した工法に今後も注目が集まりそうだ。

 太平電業は洋上風力発電設備のタワーを効率的に組み立てられる新工法を開発した。吊り上げや移動などの作業に同社のジャッキシステムを活用し、超大型クレーンは使わない。組み立てたタワーは架台で支え、地震や強風による転倒を防ぐ。重量物に耐えるための地盤改良は不要で、洋上風力の建設コストを大幅に抑えられる。港湾の広さや整備状況を問わずに適用できるため、国内の洋上風力建設市場で需要が期待できそうだ。

 洋上風力のタワーは複数のパーツに分けて建設地点の最寄りの港湾に輸送し、組み上げてからSEP船(自己昇降式作業台船)で建設地点へ運ぶ。組み立て作業は100メートル以上の高さまで届く超大型クレーンを使い、下部のパーツに上部のパーツを積み重ねる方法が主流となっている。

 組み上がったタワーは非常に巨大だ。出力1万キロワット級の場合、高さは100メートル以上に達して重量は数百トンを超える。このため組み立てを行う港湾はタワーや超大型クレーンなどの重量物に耐える強靭な地盤が必要。完成後のタワーを保管する広い敷地も求められる。

 国内にこれらの条件を満たす港湾は少なく、洋上風力の建設に取り組むためには多額の費用を伴う整備が欠かせない。超大型クレーンも国内に数台しかなく、機器の確保自体が難しい。タワーは細長いため、揺れや強風で転倒する危険性もある。特に日本は諸外国と比べて地震や台風が多く、十分な対策が必要だ。

開発した新工法のイメージ。ジャッキアップシステムでタワー上部のパーツを吊り上げ、空いたスペースに下部のパーツを移動させる

 新工法は架台にセットしたタワーのパーツをジャッキシステムで組み立てエリアまで水平方向に動かす。吊り上げ用のジャッキでパーツを持ち上げ、空いたスペースにタワー下部のパーツを移動。パーツ同士を接続する。

 ジャッキシステムはミリ単位で制御が可能な太平電業のシステムを流用した。組み立て時の位置調整や、移動時にパーツを直立状態に保つ際に機能を発揮している。

 パーツは下部から押し上げるようにしてつなぎ合わせるため、パーツを高く吊り上げる超大型クレーンは不要。架台の下に鋼製マットを敷くことで、軟弱な地盤でもそのまま使用できる。

 組み上がったタワーも積み込み時まで架台で保持し、地震や強風によるタワーの転倒も防止する。100メートルを超える大型タワーでも問題なく支えることができるという。

 タワーは基本的に海岸線と垂直方向に並べる。岸壁に沿って並べ、荷さばきのスペースをふさいでしまう従来工法と比べて港湾スペースを有効活用できる。

 架台は海側にせり出す形でも設置可能。クレーンの旋回半径が小さく、使用場所が小規模な港湾に限られていた小型のSEP船へもタワーを積み込めるようになる。

 太平電業は昨年11~12月にモックアップ試験を実施した。使用した模擬タワーは実機(出力1万キロワット程度)の4分の1スケールで高さ約25メートル、重量約14.4トン。パーツ同士を想定通りに接続できることや、異常が発生したら安全に作業が停止できることを確認した。

 洋上風力の出力は世界的に増大する傾向にあり設備も一層の巨大化が見込まれる。将来は既存の超大型クレーンに代わる工法の必要性も指摘されている。

 開発した新工法は洋上風力の巨大化にも十分な対応が可能となっている。国内で建設する場合に課題となっていた超大型クレーンの確保や港湾の整備も不要になり、工事のハードルが一気に低くなる。

 技術本部風力エナジープロジェクトの竹田裕治プロジェクトマネージャーは「日本の港湾環境に非常に適した工法だと思う」と自信をみせている。

電気新聞2021年9月24日