鈴鹿サーキットに運び込まれた褐炭由来の水素

 川崎重工業はJパワー(電源開発)、岩谷産業と協力し、オーストラリアで生産した褐炭由来の水素をトヨタ自動車へ提供した。水素はトヨタが開発中の水素エンジン車の燃料として利用。水素エンジン車は18~19日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開かれた5時間の自動車耐久レースで走行した。川崎重工は水素社会の実現へ、今後もトヨタなど需要家との連携を深めていく。

 川崎重工とJパワー、岩谷産業は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、褐炭由来の水素の製造や、液化した状態での水素の輸入に取り組んでいる。Jパワーはオーストラリア国内に試験設備を設け、今年から褐炭由来水素の製造を始めた。

 Jパワーはこのほど、褐炭由来の水素をガスの状態で空輸し、トヨタ向けに約15キログラム分を提供した。岩谷産業は水素の国内輸送を担当。燃料電池トラックを活用することで、水素輸送時の二酸化炭素(CO2)排出低減に努めた。

 トヨタが開発中の水素エンジン車「カローラH2コンセプト」はガソリンエンジンを改良し、水素を燃焼させることで動力を生み出す。水素を空気中の酸素と化学反応させて電気をつくり、モーターを駆動させる燃料電池車(FCV)とは構造が異なる。

福島県浪江町の水素も調達

 トヨタは5月から水素エンジン車で耐久レースに2回参戦している。今回のレースでは褐炭由来の水素に加え、NEDOなどが福島県浪江町に建設した福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)で作られた水素も調達した。

 川崎重工の橋本康彦社長とトヨタの豊田章男社長は18日、耐久レースのスタート前にそろって会見した。豊田社長は水素エンジン車を開発する意義について「カーボンニュートラルの時代において(動力源の)選択肢を広げるということに尽きる」と強調した。

会見後に握手する川崎重工の橋本社長(右)とトヨタの豊田社長

 豊田社長は自身の後方に置かれた会見用ボードを見て「初めはこんなに多くの会社名は無かった。一戦一戦の積み重ねで(業界を超えた)仲間が増えている」と感慨深げに語った。橋本社長も「需要サイドのトヨタと供給サイドの我々がつながることが水素社会を大きく前に進める原動力になっている」と力を込めた。

来年のレースへ継続利用を検討

 川崎重工は今年度中に自社で建造した液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」を使い、オーストラリアから日本へ褐炭由来の水素を海上輸送する実証実験を始める予定だ。トヨタは来年の耐久レースでも水素エンジン車を投入し、褐炭由来の水素を継続して利用することを検討している。

 トヨタの佐藤恒治執行役員は「水素エンジン車が生み出す連携や、アジャイル(機敏)な開発の進み具合を見ると、短期的な活動で終わらせてはいけない」と述べた。橋本社長も今後の水素供給について「前向きに進めたい」と応じた。

電気新聞2021年9月22日