世界の自動車メーカーは一斉に電気自動車(EV)の販売強化へと走り始めているが、実現を左右するのはバッテリー(蓄電池)の安定調達だ。バッテリーはEVのみならず、燃料電池車(FCEV)やハイブリッド車(HEV)でも使うので、各社の必要量は膨大となる。また、現在のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度や安全性などを高められる次世代の「全固体電池」を巡る企業間・国家間の先陣争いも、熱を帯びている。
 

トヨタは販売計画を倍増

 
 トヨタ自動車は5月にEVなど電動車の中期的な販売計画の見直しを行い、公表した。従来は2025年ごろにグローバルで550万台の販売を掲げていたが、今回は30年に800万台という数値に引き上げた。そのうち、ゼロエミッション車であるEVとFCEVについては計200万台とし、従来の計画を倍増させた。

トヨタが22年から投入する新型EVの「bZ」シリーズ(写真提供:トヨタ)

 トヨタは1997年にエンジンとモーターを併用するHEVを世界で初めて量産化し、電動化の先頭を走ってきた。同社のHEVは、高い燃費性能などにより各地で支持を獲得、20年度の世界販売は209万台(前年度比11%増)となった。HEVを主体とする同年度の電動車比率は24%と、ほぼ4台に1台に達しており、世界の主要メーカーでは最高だ。

 ちなみに新車販売でトヨタと首位の座を競う、独VW(フォルクス・ワーゲン)の20年の電動車(EVとプラグインハイブリッド車=PHEVの合計)比率は4.5%にとどまる。

 トヨタが電動車に搭載しているバッテリーの総容量は、現状で年6ギガワット時(600万キロワット時)だが、電動車を800万台に増やすには、その30倍の180ギガワット時(1億8千万キロワット時)が必要になるという。新たな電動化計画を発表した長田准執行役員は「バッテリーの確保とEVの生産ラインづくりが大きな課題となるが、いずれも積極的に投資していきたい」と強調した。

 一方、今年3月に欧州の新車販売に占めるEVの割合を30年に7割とする計画を発表したVWは、同年までに欧州内で大規模なバッテリー工場を6カ所新設する方針も示した。6工場の合計能力は年240ギガワット時(2億4千万キロワット時)としており、トヨタが同年に必要とする容量を3割強上回る。およそ400万台のEVに搭載できる規模であり、VWはバッテリーでライバルを一気に引き離そうと打って出る。
 

夢の「次世代型」でしのぎ

 
 バッテリーを巡っては、もうひとつの闘いも進んでいる。次世代型の主役と目されている全固体電池の実用化レースだ。現在使われているリチウムイオン電池よりも安全性に優れ、エネルギー密度が高いため、コンパクトにでき、コスト低減の可能性も高いという夢のようなバッテリーである。

全固体電池の開発で先行するトヨタが2010年に初公開した試作電池(写真撮影:筆者)

 世界の自動車大手が開発を進めており、日本勢もトヨタ、日産自動車、ホンダの3社が取り組んでいる。国も開発を後押ししており、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が18年度から始めたプロジェクトでは自動車やバッテリーメーカーなど民間24社と15の大学・研究機関が産学共同で研究を進めている。

 NEDOによると、01年から18年までの全固体電池に関する特許出願は日本が世界の37%を占め、最も多かった。実用化への歩みでも日本がリードしており、トヨタはいち早く20年代前半に発売する新車に搭載する計画を公表、21年には試作車を披露することになっている。全固体電池の実用化はEVの普及を加速させ、自動車メーカーの勢力図を一変させる可能性を秘めている。

【用語解説】
 ◆全固体電池
 現在のリチウムイオン電池は、電解液の中をリチウムイオンが行き来して充放電するが、電解液は漏れると火災を起こしやすい。全固体電池は電解液を固体材料による「電解質」にするもので、安全性は飛躍的に高まる。エネルギー密度は3倍程度にできるため電池はコンパクトとなり、自動車の航続距離を伸ばすことが可能。充電時間もリチウムイオン電池より3分の1ほどに短縮できる。多様な材料を使える可能性があり、コスト低減も期待できるが、量産化技術の確立など課題も多い。

電気新聞2021年7月5日

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