竹之内 亮佑さん

 過去最多の選手が参加した東京パラリンピック。多様性と調和を理念に掲げる「平和の祭典」の陰には、ホスト国ならではの献身的なサポートがあった。中学時代から卓球に打ち込んできた関電工の竹之内亮佑さん(33)は所属する千葉県内のクラブチームを代表してオランダ女子選手の練習役を務め、金メダル獲得に貢献。ハンディをものともせず、ひたむきに競技と向き合う選手の姿に「感銘を受けた」と竹之内さん。経験を糧に自身の飛躍を誓う。

とにかく負けず嫌い

 千葉県佐倉市出身の竹之内さんは両親ともに卓球選手という家庭に育ち、中学時代には自然とこの競技の虜(とりこ)になっていた。「とにかく負けず嫌い」と語る通り、練習を苦にしない性格からめきめきと頭角を現し、県内トップの実力を誇る千葉経済大学附属高校に進学。インターハイ団体戦で千葉県勢とし四十数年ぶりのベスト8に輝き、ダブルスでは関東大会優勝の好成績を収めた。

 その後、ライバルひしめく明治大学に進んでからも、寮生活を送りながら卓球に打ち込んだ。1学年下には東京五輪・混合ダブルスで日本卓球界に史上初の金メダルをもたらした水谷隼選手がおり、「負けず嫌い同士」で切磋琢磨した。

 関電工に入社したのは2011年。時を同じくして千葉県流山市のクラブチーム「流山アストロズ」に入団した。全国のクラブチーム同士で争われる大会で準優勝したこともある強豪クラブだ。竹之内さんは個人としても全日本卓球選手権大会(マスターズの部)に出場を続け、19年には30歳以上の部で3位入賞を果たしている。

電工が施工したキッコーマンアリーナ(流山市民総合体育館)でファンゾン選手(写真手前)とボールを打ち合う竹之内さん。練習では細かな要望にも丁寧に応じた



練習パートナーに

 流山市は東京五輪・パラリンピックの複数競技でオランダ選手団の「ホストタウン」に登録されており、事前合宿の場を提供。卓球選手の練習パートナーとして地元アストロズに依頼があった。竹之内さんは双方の出場選手の相手役を務めた。そのうちの1人がロンドン大会とリオ大会のパラリンピックを連覇した世界ランキング1位のケリー・ファンゾン選手だ。

 ファンゾン選手は片足に障害があるものの、競技中は一切つえを使わない。それでいてバランスを取りながら威力のあるボールを繰り出す。打ち合うとすぐに実力が分かった。「飛んでくるボールにハンディキャップは感じない。すごいの一言。感動を通り越して感銘を受けた」

 8月13~19日の間、アストロズの他の選手らと交代で基礎練習と実践形式の応用練習に付き合った。サーブの出し方やボールの回転のかけ方などリクエストにも丁寧に応じた。コロナ禍で制約はあったが、使っているラケットのことや得意とする戦法のことなど親しく言葉を交わす機会もあったという。

パラリンピック三連覇の快挙を成し遂げたファンゾン選手(左)と竹之内さん



三連覇の快挙に喜び

 練習の成果もあってファンゾン選手はシングルスで見事に金メダルを獲得。パラリンピック三連覇の快挙を成し遂げた。団体戦では決勝で中国に敗れたものの、銀メダルを手にした。竹之内さんもクラブの仲間たちと偉業を喜び合った。

 現在は経営企画部経営企画チームに在籍する竹之内さん。残業のない金曜日と土日を使ってクラブの練習に励むとともに、出身高校で後進の指導にも当たっている。「指導する側に回ってから卓球の見方が変わってきたように感じる。より深く理解していないと教えることはできないから」

 プレーヤーとしての至近の目標は10月に予定される全日本マスターズで優勝することだ。「今回の経験を生かし、地域の皆さんにも卓球の魅力を伝える機会をつくっていきたい」。競技にかける思いは募る一方だ。

電気新聞2021年9月21日