カーボンニュートラル実現の牽引役と注目されるEV(電気自動車)だが、2020年の世界での販売はおよそ250万台(筆者推計)にとどまる。9000万台規模の新車総需要に対しては、まだ3%にも満たない。ただ、国別では昨年から顕著な販売増の動きも出ており、世界の自動車メーカーは中長期のEV投入計画を相次いで打ち出している。
 

独メーカーの不正事件で一変

 
 主要国・地域の20年のEVの販売動向を見ると、もっとも普及が加速したのは欧州(主要18カ国の乗用車統計)だった。前年から2.1倍に増え、市場全体に占める比率は7.2%となった。こうした欧州でのEVブームは、乗用車の主流だったディーゼルエンジン車を巡り、15年にVW(フォルクス・ワーゲン)などドイツメーカーの排出ガス検査の不正が露呈したことが、ひとつの背景になっている。軽油を燃料とするディーゼル車は、ガソリン車より優位な環境・経済性能が評価されていたものの、この不正事件で一変した。その痕跡を消すかのようにドイツ各社はEVやプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)への傾斜を強めているのだ。

 他方で欧州は元々、気候変動への意識が高く、ノルウェーのように国を挙げてEVに誘導するところもある。同国では年間15万台規模の乗用車販売のうち、20年は半数強がEVとなり、初めて過半に達した。ノルウェーの電源は水力発電が9割を超えるなど、ほぼ全量が再生可能エネルギーという事情もあって、政府は購入補助金など種々のEV優遇策を打ち出している。25年までにはCO2(二酸化炭素)を排出しない車両しか販売できないように規制し、EVや燃料電池車(FCEV)の実験的ともいえる普及へと突っ走る。

 販売規模では欧州を上回っているのが中国だ。同国ではEVだけでなくPHEVとFCEVを含めた「新エネルギー車」(新エネ車)の統計となるものの、20年の販売実績は137万台(前年比11%増)となった。中国は世界最大の新車市場であり、20年の総需要は2531万台(同2%減)に達し、このうち5.4%がEVを中心とする新エネ車だった。

 その中国にはEV専業最大手の米テスラが19年に工場進出しているが、100を超えるEVメーカーが乱立しているのも特徴だ。20年7月には上海汽車集団と米GM(ゼネラル・モーターズ)の傘下にある専業メーカーが2万8800元(約48万円)と格安な軽自動車タイプの「宏光ミニEV」を発売し、月間販売が2万台を超えるヒットとなっている。「世界の工場」の活力は、EVの投入競争でも目が離せない。
 

巨大市場の日米は依然低調

 
 一方、新車市場で世界の2、3番手に付ける米国と日本でのEV販売はまだ、低調だ。米国は25万4000台(同5%増)で販売比率は1.7%となった。大排気量のエンジンを搭載したSUV(多目的スポーツ車)などが好まれる国であり、そうしたニーズを満たすEVの登場はこれからだ。日本は主要国で唯一前年を下回る1万4600台でシェアは0.6%と、現状では際立って低い。トヨタ自動車などがハイブリッド車(HEV)の開発と投入で先行、その環境・経済性能が広く受け入れられており、EVの出番には時間がかかっている。

 このように足元の国別の普及では温度差が大きいものの、世界のメーカー各社はEVなどクルマの電動化加速では、一斉にアクセルを踏んでいる。とりわけディーゼル車不正に手を染めた独VWは、クリーンなイメージも託しながらEVへの傾斜を打ち出した。今年3月には30年までに新車販売に占めるEVの割合を欧州で7割、米国と中国では5割以上とする方針を発表した。米国大手ではGMが25年までに世界で30車種のEVを投入するとともに、35年までにはエンジン車とHEVを全廃する計画としている。

 日本勢も相次いで電動車の強化に動いてきた。4月にはホンダが、40年時点の世界販売を「50年のカーボンニュートラル実現に向け、EVとFCVのみにする」(三部敏宏社長)と、現在の主流であるHEVをも除外した思い切った策を表明した。続く5月にはトヨタが30年に世界で800万台の電動車を販売し、うちEVとFCEVは従来比で倍増の200万台とする計画を示した。30年代に向けた自動車産業の覇権争いは、EVを主戦場として幕を開けたところだ。

電気新聞2021年6月21日付