電気を動力源にモーターを回して走る電気自動車(EV)が世界で注目されている。あと数十年もすれば、130年余り前に発明された内燃機関(ガソリンエンジン)による自動車から、主役の座を奪うと目されている。カーボンニュートラルを目標とする地球温暖化対策がグローバルで動き始めたことが、EVを強く後押しする。コスト高や充電インフラの整備といった数々の課題を抱えながらも、非自動車会社も交えたEVビジネスへの傾注が加速している。

 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルは、2015年の「COP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)」で採択された、いわゆる「パリ協定」に基づく温暖化対策の柱だ。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5度の上昇に抑えるのを努力目標とし、そのためには50年にカーボンニュートラルの実現が必要と導いている。

 日本政府も昨年10月に50年での達成を宣言したが、資源エネルギー庁によると今年1月時点で125の国・地域が同様の実現を表明している。世界最大の排出国である中国は10年遅れの60年での達成を掲げているものの、同国を含むと世界のCO2排出量の約3分の2を占める国と地域がカーボンニュートラルに取り組むことになる。
 

脱炭素へ発電と自動車が鍵に

 
 排出削減を進めるうえで着目されるのが発電と自動車だ。日米欧中におけるセクター別CO2排出源は、いずれも発電が5割前後と最も多く、次いで自動車が中心の「輸送」(国・地域によって1~3割程度)となっている。発電は化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が対策の柱となる。一方の自動車での脱炭素は、現時点の主流であるガソリンエンジンとディーゼルエンジンの内燃機関からEVなど電動車への転換、すなわち電動化ということになる。

 電動車はEVのほかに実用化されているもので、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HEV)、外部充電を可能にしたHEVであるプラグインハイブリッド車(PHEV)、水素の化学反応で発電してモーターで走る燃料電池車(FCEV)がある。このなかで、EVとFCEVは走行中の排出ガスはゼロとなる。
 

製造への参入障壁が低く、普及に期待

 
 さらにEVは、主要部品がモーターとバッテリーというシンプルさもあって、製造への参入障壁は低く、電動車で最も普及が期待される存在になった。もっとも、筆者の推計だと20年の世界販売は250万台程度で、約9千万台の新車総需要のなかでは、まだ3%にも満たない規模だ。

 だが、ここ1、2年で各国政府がエンジンのみで走る自動車を30年から40年にかけて販売禁止にするといった方針を相次いで打ち出したことから、EV産業の成長への期待が膨らんでいる。その象徴として、昨年7月にはEV専業の最大手である米テスラの時価総額が、自動車トップのトヨタ自動車を上回る事態となった。米アップルなどIT大手もEV事業への参入を準備しており、伝統的な自動車企業とのEVレースに挑む構えだ。

米テスラの量販モデル「Model 3」
(写真提供=テスラ)

【用語解説】
 ◆テスラ
 米国で2003年創業のEV専業メーカー。20年の販売は50万台(前年比36%増)で世界シェアは約2割だった。中国や欧州など海外生産も加速させており、22年には100万台の販売をめざす。パナソニックが主たるバッテリー供給者で、10年にはトヨタと資本・業務提携(16年に解消)するなど日本企業との接点も少なくない。CEOのイーロン・マスク氏は、20年に有人宇宙飛行を成功させた宇宙開発企業のスペースXも経営する。

電気新聞2021年6月14日