日本は自然災害が多い国だが、近年、地球温暖化の影響と思われる台風の強大化・進路の変化、局所的集中豪雨の激甚化などによって、電力設備が被災し、停電が数週間にわたるような事象が発生している。停電の発生はある程度やむを得ないが、極力早期に把握し、自治体・住民への情報提供や復旧活動につなげるニーズが高まっている。次世代スマートメーターの仕様検討においても、電力設備のトラブルや停電需要家の把握など、レジリエンス(強靱性)向上に資する機能が議論された。

 スマートメーターは全ての需要家に存在し、電気的にのみならず通信網を通じて一般送配電事業者の中央システムとつながっている特長がある。これを駆使することによって、電力供給設備や需要家内の配線・機器の異常の検知、停電エリア・需要家の特定に役立てられる可能性がある。
 

停電の迅速な把握・復旧は社会の重大課題

 
 停電が長時間に及べば人命にも関わる甚大な損害が発生するため、その迅速な把握と復旧は社会の重大課題である。近年、一般送配電事業者は配電線の開閉器をセンサー付きのIT開閉器にリプレースし、電圧・有効電力・無効電力を1分粒度で計測できるように整備を進めている。配電系統に断線が発生し、切れた電線が空中に垂れ下がっている状況では故障電流が流れず、変電所の保護リレーでの検知が難しかったが、開閉器の計測データによって断線区間を特定できるようになる。しかし、図1に示すような分岐線での断線発生や、柱上変圧器内部またはその下流の低圧設備の故障が原因で停電が発生している場合には、センサー付き開閉器が整備されても停電を検知できないことがある。
 

 停電状態の需要家のスマートメーターは動作しないため、データを送ってこない需要家は停電していると推定できる。また、各メーターに対して死活状況の返信を求める機能(ポーリング)もあり、停電が疑われる場合に有用である。電力メーターがスマートメーターになることで停電検知のレベルは格段に上がり、一般送配電事業者は、IT開閉器とスマートメーターを組み合わせて断線などの故障検知、停電需要家の特定を行っていく方針である。

 しかしこの方式では、故障による停電発生からスマートメーターのデータが送られてくるまでの時間、つまり最大で30分程度、停電が分からないことがありうる。そこで考えられたのがLast Gaspと呼ばれる機能で、スマートメーターが停電を検知し、通知を行う。停電後の通信のため、蓄電池やキャパシタが必要になる。停電検知信号も通常のデータと同様の経路で伝送されることになり、マルチホップ方式の場合、全てのデータの収集が終わるまでの1~3分間程度の蓄電容量が必要であり、さらにコンセントレーターにも蓄電が必要である。停電箇所の早期特定により、停電時間の短縮、現地出向回数削減などの便益が見込まれ、次世代スマートメーターに搭載すべき機能であるとの結論になった。
 

安全安心確保へ使用電力量に上限

 
 一方、広域の大規模災害に際し、通常より少量であっても電気を使えることの効用は絶大である。東日本大震災直後、非常に多数の発電所が被災し発電できなくなったため、関東地方で計画停電を実施する必要が生じた。これは事前予告の下、地域ごとに輪番で3時間停電させるもので、総電力使用量が発電可能量を超えないようにする措置である。この間、ある割合の需要家が全く電気を使えない状況になるが、スマートメーターに遠隔でアンペア制御を行い使用電力量の上限を設定できれば、完全停電となる需要家をなくすことが可能となる(図2)。現行のシステムにおいては、全メーターに対し一斉に設定を行うためのシステム改修が必要であるが、停電回避の効用は大きく、災害時の人々の安心安全にもつながることから、次世代スマートメーターの必須機能とすることが決められた。
 

【用語解説】
 ◆IT開閉器 開閉器は、故障区間を健全な区間から切り離すために設置されるスイッチ。IT開閉器はセンサーを内蔵し、電圧、電流を計測できる。前回述べた配電系統運用の高度化にも大きく貢献する。

 ◆Last Gasp 訳は「最後のあえぎ」であるが、停電になったことをトリガーにその発生を示す信号を送出する機能。欧米のスマートメーターで実装例がある。

電気新聞2021年5月31日