スマートメーターに求められるデータの種類・細かさ・提供の早さは、データ活用による効用と必要になる通信・システムの構築・運用コストの関係(費用対便益)から決めることになる。これを踏まえ、初代スマートメーターの要件「需要家使用電力(有効電力)量30分値を1時間以内に小売事業者に提供」の拡張について、データを「計測する」ことと「送る=集める・提供する」ことを分け、粒度(細かさ)と鮮度(提供の早さ)を指標に議論・検討がなされた。

 スマートメーターシステムの特徴は、個々のデータ量は小さいが面的に膨大に散在しており、これを一定時間内に1カ所(MDMS)に収集する必要があるということだ。使用有効電力量の30分値は、電圧と電流の計測値からメーター内部でミリ秒オーダーの使用電力量を算出し、これを積算して得られる。従って、有効電力に加え無効電力や電圧を様々な時間粒度でデータ化することはたやすい。また、データをためることは、メーターほか各システムに搭載するメモリー量を増やせばよく、さほど大きな問題にならない。課題となるのは、種類×粒度で増えるデータを集約しながら伝送する通信システムである。
 

マルチホップと1:N、現行は2つの方式

 
 スマートメーターシステムの構成と通信方式()について、これまで国内のほとんどのエリアで、無線(920メガヘルツ)マルチホップ方式を主に採用している。メーター同士が無線でつながり、30分ごとにデータを渡しながらコンセントレーターに数百軒分を集約し、光回線などを使ってHES・MDMSに転送する。マルチホップ部分は、通信容量が100kbps程度と小さく、送れるデータ量の制約が大きいが、各メーターからコンセントレーターに至るルートは複数可能で、障害物などで通信が通らない場合など、環境に応じた柔軟な対応ができる。通信容量は現在の要件には十分であり、都市部のように需要家密度が高いエリアでデータ収集率を高められるコスト優位な方法となっている。

 一方、需要家密度が低い地域ではメーター間の無線通信が難しく、LTEなどの通信網によって各メーターから直接データを吸い上げる1:N方式が使われている。この方式では100Mbps以上の通信が可能で、一度に送れるデータ量の問題はほぼない。

 通信仕様でデータ量に加えて重要になるのは、同時接続数と通信頻度である。図の2方式いずれにおいても各メーターのデータを収集する通信路(それぞれコンセントレーターと基地局まで)があり、どれくらいの数のメーターを同時に接続できるかがデータ収集に要する時間を決め、その短縮には収集装置の数を増やす必要がある。通信頻度は、データ提供時間・頻度とデータ粒度で決まる要求値であり、データ収集に要する時間が長いと実現できない。いずれの方式でも現状の30分に1回オーダーを、例えば1分に1回に短縮するには莫大(ばくだい)なコストがかかる。

 では、新しい時代を見据え、使用する側のニーズとその効用はどうか。

 欧州では再エネ拡大を背景に市場での取引単位を15分に統一する流れにあり、今後国内でも15分単位の取引へ移行する可能性がある。これにより、必要調整力の削減が期待される。関連して、15分値の提供が即時になされれば、30分の取引単位での同時同量に対応しやすくなるニーズが示された。

 次に、太陽光発電などの接続拡大や新たな配電事業・地域マイクログリッドなど、きめ細かな電圧管理や運用の高度化の必要性が高まると考えられる。需要家単位で電力情報(電圧、有効・無効電力)が得られれば、再エネ導入・利用の拡大、配電系統の電力損失削減などにつながる検討結果が示された。このようなユースケースでは、データ粒度が細かいほど期待効果が大きい一方、提供の即時性は必ずしも必要ないという特徴がある。
 

5Gなどに期待、15分値の対応準備

 
 これらのニーズに応じて、計測値の蓄積に必要なメモリー、通信区間ごとに一度に送信するデータ量、通信の頻度の要求値を評価し、関係者のヒアリングを基にシステム構築・改修のコストと発生する便益(調整力削減、再エネ導入拡大・損失低減によるCO2排出削減など)を試算した結果を基に、前回示した基本仕様を決定した。

 総括すると、データ種類の増・粒度細分化自体のコストアップはさほど大きくないが、鮮度の高い早い提供のために必要な通信網・各システムの構築費用が非常に大きいことが分かり、5G化など今後の通信技術の一層の進歩・コスト低減に期待しつつ、当面は「30分粒度1時間以内提供」の現行仕様を維持し、15分値への対応や、系統高度化に最低限必要なデータ取得(10%程度の需要家の電圧、有効・無効電力の5分値)ができるようにしておき、必要が生じたときにさらにデータ活用を可能とするよう通信・関連システムの高度化・拡張を行っていく、という考え方に基づいている。

電気新聞2021年5月24日