2019年12月に進水した川崎重工業の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」。Jパワーなどが参画する、オーストラリアから日本への液化水素輸送実証に活用される

 脱炭素燃料の供給網構築に向けた動きが相次いでいる。製造ポテンシャルが高い海外との連携や国内の既存施設を活用する事業の検討が、エネルギー事業者の間で本格化してきた。2050年カーボンニュートラル実現には、アンモニアや水素の大量活用が必要になる。製造、貯蔵、輸送の一貫した取り組みが加速する見通しだ。

 発電分野での需要増加が見込まれるアンモニアは、7月にINPEX、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、JERAがアブダビ国営石油会社(ADNOC)と事業化調査の契約を締結した。アラブ首長国連邦(UAE)からの供給網を構築し、アジアへの展開を視野に入れる。

 アンモニアは肥料用途を中心に生産や輸送技術が確立されており、既存インフラを使えるメリットがある。出光興産は徳山事業所(山口県周南市)で停止した原油精製設備を有効活用し、供給網の構築に乗り出す計画。同事業所の輸入基地化を目指しており、コンビナートや近隣事業所への供給可能性を探る。

 化学肥料向けアンモニアプラントで実績がある東洋エンジニアリングは、燃料向けの生産事業にも参入する方針を示した。25年度までの中期経営計画で脱炭素関連の事業を開拓する姿勢を鮮明にしており、伊藤忠商事などと協力し、ロシアの東シベリアと日本間で事業化調査を進める。

 アンモニアに先行し、脱炭素の切り札と目されてきた水素でもプロジェクトが前進してきた。Jパワー(電源開発)は今年、褐炭から水素を製造する実証事業をオーストラリアで開始し、商用規模の製造技術確立を目指している。それと並行し、国内外で展開する再生可能エネルギーを活用した「グリーン水素」の事業機会も探る。昨年12月に立ち上がったドイツの水素関連協議会に参加。製造、輸送、利用の知見を深める狙いだ。

 ENEOSは今月に入り、オーストラリアの再生可能エネルギー事業者であるネオエン社と協業を検討する方針を発表した。太陽光や風力で発電した電力で水素を製造し、貯蔵・輸送形態の一つであるメチルシクロヘキサン(MCH)へ変換して日本まで海上輸送する。同社の製油所を受け入れ基地として活用したり、有機ハイドライドに変換して貯蔵する際の備蓄性なども検証していく。水素、アンモニアとも脱炭素に向けた有力な資源となる。将来の大幅な需要拡大に対応するため、サプライチェーン構築の検討を急ぐ。

電気新聞2021年8月10日