K4Digital(ケイ・フォー・デジタル)は、関西電力グループのDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みを強力に支援する専門機能子会社として2018年8月に設立され、既に100を超えるDXのプロジェクトをサポートしてきた。今回は、それら具体的なDX取り組みの実例を示しながら、画像認識や音声認識といった各ソリューションが具体的にどういう部分に実装され、効果をもたらしているのか事例をベースにご紹介したい。

 前回に続き、K4Digital(以下K4D)が実施している「画像認識(見る)」の事例紹介から始めたい。DXの様々な取り組みの中でも、画像認識の適用・応用範囲は実に多岐にわたる。
 

事故防止へ鉄道踏切の異常検知

 
 最近の取り組みとしては、関西電力グループであるオプテージと開発した人工知能(AI)画像解析による踏切遮断中の異常検知プログラムが挙げられる。これはK4Dが手掛けた人間を識別する画像認識技術の応用であり、実際にオプテージで商用サービス化の検討を進めているなど、関西電力グループのDXの裾野の広がりを感じられる案件である。

 鉄道事故は各種安全対策が進み、トレンドとしては減少傾向にあるものの、人との接触事故は依然として事故の半数以上を占め、この減少は社会課題でもある。

 一言で「人」と言っても、その形態は歩行者から自転車、ベビーカー、車いすなど様々である。鉄道事業の生業上、万が一にでも誤検知を出して、電車を急停車させてしまうようなことは大変なリスクであり、従来の障害検知システムではなかなか対応が困難であった。

 そこでK4DのAI画像診断を応用し、これら様々な物体の侵入を精度高く検出するプログラムを開発。現在はオプテージにおいて、山陽電鉄と実用化に向けた実証を行っており、雨天時や夜間などの認識精度の向上や、異常検知時に運転士に即時発報を行えるような周辺システムの開発などを進めている。

 前稿で、DXの取り組みはデータを基点にヒトの機能の拡張に似た効果を生むものではないかと表現させて頂いたが、ヒトの視覚をカメラに置き換えることで画素数は格段に上がり、機械学習で物体を正確に検知する精度を上げれば、疲れを知らない監視員と同等以上の効果を得られる。

 例えば、同じくオプテージの無線中継所の侵入監視システム、水力発電における水面の塵芥(じんかい)の検知や河川立ち入り者の即時検知、画像解析による設備の劣化箇所診断など、活用事例は相当に広がっている。K4DはコアとなるDX技術の内製化とナレッジの集積箇所になっており、一つの事例をシームレスに他展開につなげることで、全体の投資対効果を上げることにも貢献している。
 

発音のゆらぎ認識し、停電復旧見込み回答

 
 では次に、「画像認識(見る)」に続き、「音声認識(聞く)」の事例を紹介したい。音声認識も画像認識と同様、まず人間の声を正確に認識できる技術の開発から始まった。

 近年、台風などの災害は激甚化しており、相当規模の停電ともなれば電力会社のコールセンターは回線がパンクしがちになる。

 関西電力は、K4Dが開発した音声認識技術を活用し、国内の電力会社で先陣を切って、AIを活用した停電情報自動応答システムの業務適用を開始した。専用ダイヤルにコールすると、AIがお客さまから住所情報を聞き、停電の状況や復旧見込みを回答する。

 音声認識の難しさは音声のゆらぎにあり、同じ言葉でもお年寄りや子供の発音、関東や関西など地域のイントネーションもある。開発したプログラムでは、こうした発音のゆらぎも認識し、聞き取った情報がシステム上で照合できない場合はAIが自動で聞き直し、情報を修正していく。さらに機械学習により、情報量を増やすことで、ますます精度が上がっていく。

 この停電自動応答システムは、今では関西電力だけでなく他電力でも活用されており、K4Dとしては喜ばしい限りである。こうした音声認識技術の開発ノウハウは、その後、コンタクトセンターの応答自動化や音声による機器操作といった様々な取り組みにつながっていく。

電気新聞2021年4月26日